2022 Fiscal Year Research-status Report
アミロイドβペプチドの「老化」によるアルツハイマー病原性変化の解析
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21K06498
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
楯 直子 帝京大学, 薬学部, 教授 (00201955)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / アミロイドβペプチド / アミノ酸の異性化 / D-Asp / 線維形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢に伴い生体内タンパク質を構成するアミノ酸のL-体からD-体への異性化が生じる。アルツハイマー病の病因タンパク質の1つアミロイドβ(Aβ)においても加齢に伴いアスパラギン酸(Asp)のD-体異性化が確認されている。 2022年度も引き続きAβ(1-42)においてD-体異性化が確認されている1位、7位、及び23位のAspが異性化したAβの機能特性を解析する研究を継続した。具体的にはD-Asp含有Aβの線維形成促進能(シード能)について解析した。アミロイド線維形成では、既に形成された線維断片が線維核(シード)となって、さらに線維形成を誘導し線維化・凝集が伝播する。野生型Aβ(全アミノ酸L-体)、或いはD-Asp含有Aβより形成した線維を超音波処理することにより断片化して線維形成の核となるシードとし、Aβ単量体に加えた際の線維形成速度をThT-assay法により解析した。その結果、D-Asp23およびD-Asp7,23含有Aβシードは野生型AβシードよりもAβ単量体の線維形成速度を上げ、線維化・凝集を促進することを明らかにした。 次に血中で長時間滞留することでAβのD-体異性化が起こることから、生体内で起こるAβのD-体異性化を模した実験系として、Aβの試験管内インキュベーションを行い、その溶液条件に応じて産生するD-Asp含有Aβの分離・解析を行う実験に着手した。試験管内インキュベーション溶液内で産生する各種D-アミノ酸含有異性化Aβをキラルカラムを用いたLC-MS法により、分離する条件検討実験を進めている。各種D-Asp含有Aβを個別に分離できる方法の確立がポイントとなり、個別に分離する条件を決定次第、試験管内Aβインキュベーション溶液の溶液条件に応じて産生した各種D-Asp含有Aβを分離し、得られた各D-Asp含有Aβについて機能特性解析を進めていく方針である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加齢により生体内Aβ中で起こるAspのL-体からD-体への異性化に基づき、産生する各種D-Asp含有Aβについて、野生型Aβ(全アミノ酸がL-体)とは異なる機能特性を解明する研究を2021年度から継続して計画・実施した。2021年度の異性化Aβの線維・凝集体の安定度、構造特性の明確化、及び微細な形態観察に関する研究成果に続き、2022年度はD-Asp含有Aβの線維形成促進能(シード能)について、野生型Aβとは異なる特性の解明を計画し、分光分析法を用いた生物物理学的実験を実施し、アルツハイマー病の病態の最初のステージで起こる線維化の詳細について、D-Asp含有Aβに関する機能特性を明らかにすることができた。 次に生体内において血中に長時間滞留することで非酵素的に産生するD-Asp含有Aβについて機能解析するため、生体内の系を模した実験系としてAβの試験管内インキュベーションの系を用いた実験を計画し進めている。まずAβをインキュベーションする溶液条件(イオン強度、共存する溶質等)に応じて産生する各種D-Asp含有Aβをキラルカラムを用いたLC-MS法により分離する方法を確立するための実験を開始し、分離条件の検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に開始した生体内の系を模した実験系として、溶液条件(イオン強度、共存する溶質等)を変化させて行うAβの試験管内インキュベーションにより、溶液条件に応じて産生する各種D-Asp含有Aβをキラルカラムを用いたLC-MS法により分離する条件検討実験を継続し、分離条件を決定する。これにより分離した各種D-Asp含有Aβについて、種々の機能解析を行う。 2022年度に続き、異性化Aβの特性解析も進め、Aβの脳内への進入に関わる血液-脳関門に存在するマルチリガンド受容体RAGEとAβとの相互作用・結合強度等に関して、野生型Aβ及び各種D-Asp含有Aβについて各々、計測し、得られた結果を比較・解析する。これによりAβの脳内進入にD-Aspが与える影響を明らかにする。 またアルツハイマー病のもう1つの重要な病因タンパク質であるタウタンパク質についても線維化・凝集体形成に関する知見を得ており、2023年度は、このタウタンパク質の線維化・凝集体形成にAβが及ぼす効果・影響を解明する実験を計画・実施し、アルツハイマー病の発症におけるAβの病原性を多角的観点から追究していく。
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