2021 Fiscal Year Research-status Report
内向き整流性カリウムチャネルによる骨形成調節機構の解明とその応用
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21K06600
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
鬼頭 宏彰 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (40749181)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 骨芽細胞 / 細胞分化 / 内向き整流性カリウムチャネル / Kir2.1 |
Outline of Annual Research Achievements |
K+チャネルは、細胞内Ca2+シグナルを直接または間接的に制御することにより、様々な細胞種において増殖・分化及び細胞死に重要な役割を果たす。骨組織は骨形成と骨吸収による骨リモデリングによりその恒常性を保っており、その破綻が多くの骨代謝性疾患の原因となっている。骨代謝性疾患の治療薬の開発戦略の中で、骨形成を担う骨芽細胞機能の制御機構の解明が注目をされているが、前骨芽細胞に機能発現するK+チャネルが骨芽細胞を介した骨組織恒常性機構において、どのような生理的役割を果たしているのかは明らかにされていない。そこで本研究の目的は、①骨芽細胞分化におけるK+チャネルの役割を解明し、②骨形成の分子機構におけるK+チャネルの生理的意義を解明することで、骨代謝疾患治療を指向したイオンチャネル創薬戦略を考案することである。これまでの検討において、骨芽細胞分化に対するイオンチャネルの役割を検討したところ、骨芽細胞への分化成熟過程において内向き整流性KチャネルKir2.1の発現が亢進し、骨芽細胞分化の制御に関連することが示された。今年度の検討において、マウス胎児より単離した中足骨を用いた軟骨内骨化モデルを用いてKir2.1の骨組織における役割を検討した。その結果、培養細胞実験と同様にKir2.1阻害により中足骨の石灰化が有意に抑制されたことから、組織レベルにおいても骨芽細胞の成熟にKir2.1活性が大きく寄与することが示された。 以上の結果より、Kir2.1は骨芽細胞増殖及び細胞分化の制御において重要な役割を果たすことから、骨形成制御を目的としたイオンチャネル創薬の標的分子としての可能性を検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
骨芽細胞分化は骨芽細胞の成熟において重要なプロセスである。これまでの検討から骨芽細胞分化に伴い、内向き整流性カリウムチャネルKir2.1の発現が亢進することを示してきた。今検討では骨組織レベルでのKir2.1の役割を検討するために、マウス胎児中足骨を用いた軟骨内骨化モデルを用いて検討したところ、Kir2.1が骨組織の石灰化にも大きく寄与することが明らかとなった。骨芽細胞分化によるKir2.1の発現亢進機構を解明するために、miRNA解析などの転写後修飾に注目して検討を行っている。現在、骨芽細胞分化において発現変動するmiRNAの中でKir2.1の発現制御に関与すると考えられる候補miRNAを13種類抽出し、それぞれのターゲットに対して阻害剤およびmiRNA mimicを処置することで骨芽細胞分化過程におけるKir2.1発現上昇メカニズムに関与するmiRNAの同定を目指した。 また、骨芽細胞間のイオンシグナルに関してギャップジャンクション分子やP2X受容体の寄与を検討したところ、ギャップジャンクション阻害薬やP2X受容体阻害薬により骨芽細胞分化が阻害されることを細胞およびマウス胎児中足骨モデルにおいて明らかにした。研究代表者は、骨芽細胞に機能発現するK+チャネルを介した膜電位変化がGJを介して周囲の細胞に伝播することが効率的なCa2+シグナル形成と骨芽細胞分化に必要ではないかと仮説を立てている。骨芽細胞におけるギャップジャンクションを介したシグナル伝達を評価するために電気生理学的手法と蛍光イメージング法を組み合わせてパッチクランプ法とcaged-Ca2+を用いて、膜電位変化による細胞間Ca2+伝播についての検討を開始し始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
骨芽細胞分化の調節において、細胞増殖は重要な役割を果たすと考えられる。MC3T3-E1における細胞周期依存的なイオンチャネル活性をより詳細に検討することで、細胞周期進行におけるカリウムチャネルの寄与を明らかにする。細胞周期同調培養により各細胞周期における膜電流、Ca2+動態、静止膜電位、イオンチャネル発現を比較することで、カリウムチャネルを介した細胞周期進行への寄与を解明したい。 細胞分化に関わるKir2.1のmiRNAを介したKir2.1 mRNAの分解機構についても検討することで、骨芽細胞分化におけるKir2.1発現亢進機構について明らかにする。Kir2.1の発現制御に関わるとの報告があるmiRNAから順次解析を開始しており、骨芽細胞分化におけるKir2.1の発現性後に関わるmiRNAを同定する。 細胞増殖・分化の制御におけるCa2+シグナルの役割を明らかにするために、骨芽細胞が分泌するサイトカインや細胞間因子を用いてKir2.1への影響を検討する。特に骨芽細胞の産生するインスリン様成長因子(IGF)や線維芽細胞成長因子(FGF)の発現変化や各因子に対する感受性変化に注目し、骨機能制御に関連する生理活性物質とイオンチャネル活性との関連を明らかにする。 実験動物の骨に欠損を形成することで、骨折治癒や骨再生の過程を検討することが可能である。本研究では骨孔形成によるマウス大腿骨の骨損傷モデルを用いて、骨形成・骨修復におけるイオンチャネルの寄与を解明する。骨再生過程における骨髄由来間葉系幹細胞や免疫系細胞を単離して、リアルタイムPCR、免疫組織化学染色法、フローサイトメトリー法により、損傷した骨および周囲組織におけるサイトカイン発現の解析、損傷部に浸潤する細胞の解析を行うことでKir2.1の骨再生メカニズムへの寄与を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
繰越金と翌年度分として請求した助成金の使用用途については、計画書の通り細胞培養や薬理学実験に使用する薬剤、分子生物実験に用いる試薬に使用予定である。繰越金については、年度内の納入に間に合わなかった試薬や抗体の購入に使用する予定である。
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