2021 Fiscal Year Research-status Report
組織特異的DNAメチル化領域に着目した大麻の新規バイオマーカーの開発
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21K06639
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Research Institution | National Research Institute of Police Science |
Principal Investigator |
山室 匡史 科学警察研究所, 法科学第三部, 主任研究官 (80646555)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 大麻 / DNAメチル化 / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、組織特異的DNAメチル化領域に着目した新規バイオマーカーの探索の準備として、「①大麻草試料の収集および選定」、「②ゲノムDNAの抽出」を行った。また、バイオマーカーの実用化に際して必要となる技術である「③油状大麻製品からのDNA抽出法の検討」を行った。 ①解析対象とする部位を大麻草の花穂、葉、根、茎、種子の5箇所に定めた。バイオマーカーの確立には、同一個体内におけるメチル化率の変動ではなく、複数の個体に共通した特徴を捉える必要があることから、それぞれの部位について3個体以上となるよう試料の収集を行った。 ②次年度以降に実施する予定の解析には、10 ng/uL以上の濃度で概ね200 ngのゲノムDNAが必要となる見込みであったことから、試料の出発量を約100 mgとした上で、植物DNA抽出キットを用いたゲノムDNAの抽出操作を実施した。その結果、花穂、葉および根については、いずれのサンプルからも必要なDNA量を回収することができた。茎については、実際の事件で押収された生の植物体からのDNA回収には成功したが、「おがら」として一般に販売されている「乾燥した芯」からは、十分なDNAが得られなかった。また、種子については、「果皮」と「胚」で分離してDNAの回収を試みたが、「果皮」から回収されるDNA量は「胚」の10分の1程度にとどまったことから、「胚」由来のDNAを「種子」として用いることとした。 ③油状大麻製品からのDNA抽出に有用と考えられるオリーブオイル用のDNA抽出キットを入手し、検討を行った。その結果、模擬的に作製した大麻オイルからはDNA抽出が可能であることが確認された。しかし、残留した植物片由来のDNAを回収していた可能性が高く、油状大麻製品の液体中に遊離したDNAが回収できるか否かについては不明瞭であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大麻サンプルの中には再入手が困難なものもあり、十分量のゲノムDNAの確保が最大のネックとなる懸念があったが、必要な部位のDNAについては年度内に概ね回収することができ、本研究において要となる次世代シーケンサーを用いたDNAメチル化解析に向けた準備が予定通り進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
収集したゲノムDNAを用いて、次世代シーケンサーによる解析を行い、各部位に特徴的な組織特異的メチル化領域の探索を行う予定である。なお、解析としては当初、全ゲノムバイサルファイトシークエンス法を用いる計画であったが、次世代シーケンサーを用いたDNAメチル化解析法として、少ないデータ量で効率的な探索が可能なRRBS(Reduced representation of bisulfite sequencing)法も報告されており、その有効性についても検討し、状況によっては解析法の変更を行う。RRBS法は、ゲノムDNAの断片化が進んでいると効果的な結果が得られないことから、今年度得られた大麻ゲノムDNAの分解度の確認を行う予定である。 また、並行して、バイオマーカーの実用化準備として、様々な大麻関連製品の収集や、DNA抽出法の検討を行う。なお、大麻関連製品に関しては、合成された大麻含有成分が使用されているだけで、そもそも大麻草のDNAが全く含有されていない製品が存在することも想定され、全製品からDNAを抽出できる手法の確立は困難であると考えられている。その上で、人工DNAの添加回収実験を行うなど、製品の性状に応じた有効性の高いDNA抽出手法を模索していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の原因は、物品費に未使用額が生じたことである。計画立案段階においては、次世代シーケンシング解析として全ゲノムバイサルファイトシークエンス法の実施を予定しており、そのライブラリー調製に必要な消耗品をはじめとする物品費を令和3年度に計上していた。しかしながら、文献調査の結果、コストパフォーマンスの高いメチル化DNA解析手法であるReduced representation of bisulfite sequencing(RRBS)法が確認されたため、RRBS法の適用の可否を吟味した上で研究計画の再検討を行うこととし、全ゲノムバイサルファイトシークエンス法にのみ用いる消耗品の購入を一旦留保した。 今年度の未使用額については、いずれの次世代シーケンス解析法を選択するか決定した後に、翌年度分の助成金と合わせ、解析準備及び解析実施のために使用する予定である。
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