2021 Fiscal Year Research-status Report
CHDF施行下における膜特性を考慮した抗菌薬投与の適正化研究
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21K06686
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
仲佐 啓詳 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任教授 (60260478)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | CHDF / AN69ST膜 / 抗菌薬 / 吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
敗血症の治療に対して、炎症性サイトカインの除去を目的に吸着特性のある中空糸膜ヘモフィルター(以下HF)を用いた持続的血液濾過透析(以下CHDF)が施行されている。AN69ST膜HFは、高い吸着特性を有しているが、抗菌薬も吸着することが懸念されていた。臨床使用される代表的抗菌薬をin vitroで検討した。メロペネム水和物(以下MEPM)、パズフロキサシンメシル酸塩(以下PZFX)、セフォゾプラン塩酸塩(以下CZOP)とバンコマイシン塩酸塩(以下VCM)、テイコプラニン(以下TEIC)の5薬剤について検討し、TEIC, PZFX, VCM では吸着を認め、MEPM, CZOPでは吸着を認めなかった(稲野ら、日本急性血液浄化学会雑誌 2019;10(2):125-30)。さらに、抗MRSA薬であるアルベカシン硫酸塩(以下ABK)について検討した。その際、アミノ基を有するABKにおいてはトリニトロフェニル化により吸光度測定による定量法を確立した。 HFを解体して透析膜を取り出し一定の大きさに切断、各抗菌薬を溶解した溶液に加えた。添加後の溶液を経時的に採取し、分光光度計を用いて各抗菌薬の極大吸収波長にて吸光度を測定。透析膜自体に対する薬剤の吸着量を算出した。 ABK溶液の含有率は、AN69ST膜投入直後から減少し、開始後1minで69.8%、5minで51.6%となった。しかしその後は、緩やかな減少となり45min経過後も44.4%に留まった。AN69ST膜は、陽性荷電の物質に対して吸着特性を示す。AN69膜の膜表面をポリエチレンイミンで処理することで膜表面のゼータ電位を低下させているが、陽性荷電を有する薬剤への吸着は既に報告されている。ABKは、陽性荷電を有している抗菌薬であることから、ABKはAN69膜と同様にAN69ST膜に対しても吸着除去される可能性が高いことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)抗MRSA薬であるABKのトリニトロフェニル化による吸光度測定による定量法の確立 (1)波長の確認 ABK溶液は、TNBSを添加した後TNP誘導体特有の黄橙色へと呈色し、TNP誘導体の標準物質として用いたTNP-glyと同じ吸収波長となる412nm付近に吸光度のピークが確認された。これらのことから、ABKはTNBSとの反応によりTNP誘導体が生成され、412nm付近に吸光度が測定されたと考えられた。また412nm付近の吸光度は、ABKの濃度と有意な正の相関関係を示したことから、このピーク波長を測定することでABKの定量が可能であると考えられた。 (2)測定条件の確認 TNP化の反応温度について、40℃の条件下では、6minまでは高い吸光度が測定されたが、以降はピーク波長が不安定となっておりTNBSの分解が促進された可能性がある。よって、ABKをTNP誘導体させるための反応温度は少なくとも30℃に留めることが望ましいと考えられた。また反応時間は、25と30℃ともに6minまで吸光度が急上昇したが、以降は緩やかな直線的上昇であった。ABKのTNP化は、6min程度で大半が完結すると考えられたが、定量上は、30min程度の反応時間が適当であると考えられた。 2)ABKのAN69ST膜への吸着 AN69ST膜を加えたABK溶液の含有率は、膜投入直後から減少し、開始後1minで69.8%、5minで51.6%となった。しかしその後は、緩やかな減少となった。AN69ST膜は、陽性荷電の物質に対して吸着特性を示す。ABKは、陽性荷電を有している抗菌薬であることから、AN69ST膜に吸着されABK溶液中の含有率が低下したと示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
1)吸着を認めた抗菌薬についてタンパク結合を考慮した条件下での吸着の検討 抗菌薬の中には、血液中でアルブミンなどのタンパクと結合して存在する。タンパク結合型と非結合型では、タンパク結合率が高い薬剤ほど透析除去されにくい傾向にある。そこでより臨床条件に近づけたアルブミン存在下において吸着現象を検討する。今までの研究で吸着を認めた抗菌薬を対象に行う。抗菌薬を溶解した後、溶液中にアルブミンを加える。そこへ一定の大きさに切断したAN69ST膜を投入して撹拌し、AN69ST膜を見て投入する前と投入後撹拌した後の溶液を経時的に採取し、分光光度計を用いて各抗菌薬の極大吸収波長にて吸光度を測定し抗菌薬の含有量を測定する。得られた含有量の差から AN69ST膜自体に対する薬剤の吸着を検討する。これにより、タンパク結合を考慮した吸着の影響が明らかとされ、より臨床条件下に近いデータを得ることが可能となる。 2)透析回路循環時における抗菌薬の吸着の検討 CHDF施行時は、血液を透析回路内で循環させ濾過透析を行うため流動性がある。そこで、実際に透析回路にAN69ST膜HFをセットし回路内を循環させた状態での抗菌薬の吸着挙動を検討する。方法は、既に吸着を認めた抗菌薬を対象に行う。AN69ST膜HFを透析回路にセットし、抗菌薬を溶解した溶液を回路内に循環させる。HFを通過する前と後でそれぞれ溶液を採取し、それぞれの定量法で抗菌薬の含有量を測定する。得られた含有量の差から AN69ST膜HFに対する吸着量を検討する。なお、アルブミンの有無の両状態において検討する
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Causes of Carryover |
抗菌薬の中には、血液中でアルブミンなどのタンパクと結合して存在する。タンパク結合型と非結合型では、タンパク結合率が高い薬剤ほど透析除去されにくい傾向にある。そこでより臨床条件に近づけたアルブミン存在下において吸着現象を検討することとしているが、アルブミンは献血由来の成分であることから、ヒト血清アルブミンの入手手続きを確認中で時間を要している。確認でき次第手続きを進め、検討を進める予定である。 また、CHDF施行の透析回路循環時における抗菌薬の吸着の検討の際に、機器のリースについて当該業者と打ち合わせを行い貸出しの手続きが可能であることが確認された。手続きの確認に時間を要した。現在、機器の搬入を受け、セットアップ中であり環境が整い次第、検討を開始する予定である。
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