2021 Fiscal Year Research-status Report
卵管上皮構築におけるエストロゲン受容体ベータを介した分子機構の解明
Project/Area Number |
21K06732
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
岩野 智彦 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (10442930)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 卵管 / 線毛細胞 / 分化 / エストロゲン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、卵管上皮構築におけるエストロゲン受容体ベータ(ER beta)を中心とした分子メカニズムの解明を目的とし、 具体的には以下の3つ課題の解決を目指している。(1) 線毛細胞分化においてER betaが制御する分子機構の解明(下流解析)。 (2) 卵管エストロゲン経路に影響を与える細胞外環境の分子機構の解明(上流解析)。 (3) 上皮構築や機能に関係する代謝産物の発現解析(代謝と細胞機能の関連解析)。2021年度は、(1)に関して、ER betaシグナルの作用する下流遺伝子を調べるため、RNA-seqを行い、複数の候補遺伝子が発見された。(2)に関して、エストロゲン様効果を示すと言われるイソフラボンが及ぼす線毛上皮細胞分化への影響を調べた。Genistein、Daidzein、Coumestrolは、ER betaを活性化し、線毛細胞分化を促進したが、Glycitinは影響しなかった。 (3)に関して、質量分析装置を用い、卵管上皮細胞の代謝解析の条件検討を行なった。エストロゲン投与により線毛上皮細胞形成を誘導した細胞を分析したところ、いくつかの成分の違いを見出した。これは、線毛細胞分化におけるER betaの重要性をさらに確証づけるとともに、卵管ホメオスタシス維持のための効能を示唆する点において意義がある。 今後は、(1)について、パスウェイ解析やGene Ontology解析を進め、候補遺伝子のなかからいくつかターゲットを絞り、エストロゲン経路との直接的な関連性を調べる。(2)について、各種ホルモン、細胞外基質等のアゴニストの影響を調べ、線毛上皮細胞および分泌細胞の分化に影響する新規シグナル経路の同定を目指す。(3)に関しては、卵管上皮細胞の分化過程におけるより詳細な代謝解明のため、エストロゲン投与後の経時的な細胞サンプリングを行い、質量分析による成分分析を進める。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、線毛細胞分化においてER betaが制御する分子機構の解明(下流解析)に関して、ER betaシグナルの作用する下流遺伝子を調べるため、RNA-seqを行い、複数の候補遺伝子が発見された。特に、細胞構造形成関連遺伝子、シグナル関連遺伝子、細胞周期関連遺伝子、等に多くの変動するものが見出された。 次に、卵管エストロゲン経路に影響を与える細胞外環境の分子機構の解明(上流解析)に関して、エストロゲン様効果を示すと言われるイソフラボンが及ぼす線毛上皮細胞分化への影響を調べた。ゲニステイン、ダイゼイン、クメストロールは、ER betaの核内局在を促進し、これはER betaの活性化を示している。さらに、線毛マーカーであるアセチル化チューブリン抗体で細胞を免疫染色すると、線毛細胞分化を促進していることが分かった。一方、グリシチンは線毛細胞の分化促進への顕著な効果を示さなかった。 一方で、分泌細胞のマーカーであるPax8陽性の細胞はゲニステイン、ダイゼイン、クメストロール投与で減少した。つまり、これらのイソフラボンはER betaの活性化を高めることから、線毛細胞分化におけるER betaの重要性を改めて示すとともに、卵管ホメオスタシス維持のための栄養補助剤としての効能を示唆するものである。 さらに、上皮構築や機能に関係する代謝産物の発現解析(代謝と細胞機能の関連解析)に関して、質量分析装置を用い、卵管上皮細胞の代謝解析の条件検討を行なった。エストロゲン投与により線毛上皮細胞形成を誘導した細胞を分析したところ、いくつかの成分の違いを見出した。これは、培地や培養器材(トランスウェル)からは検出されない成分であるため、細胞に由来する成分と考えられる。現在、上記遺伝子解析の結果との相関性を解析中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、線毛細胞分化におけるER betaが制御する分子機構の解明(下流解析)について、すでに得られたRNA-seq解析結果を元に、さらにパスウェイ解析やGene Ontology解析を進める。1年目で見出された細胞構造形成関連遺伝子、シグナル関連遺伝子、細胞周期関連遺伝子等に着目し、それらに影響を与える試薬もしくは遺伝子発現抑制等の操作を行い、線毛細胞分化への影響を調べる。また、分化過程における発現変化を経時的に調べ、エストロゲン経路との直接的な関連性を明らかにする。 第2に、卵管エストロゲン経路に影響を与える細胞外環境の分子機構の解明(上流解析)に関して、各種ホルモン、細胞外基質等のアゴニストを投与することによる上皮細胞分化への影響を調べ、新規シグナル経路の同定を目指す。また、それらとエストロゲン経路との関係性を調べる。 さらに、上皮構築や機能に関係する代謝産物の発現解析(代謝と細胞機能の関連解析)について、卵管上皮細胞の分化過程におけるより詳細な代謝解明のため、エストロゲン投与後の経時的な細胞のサンプリングを行い、質量分析による成分分析を進める。分析結果の解析を行い、分化過程に応じて変化する代謝成分を調べ、その機能的意義や遺伝子発現変化との相関性を検討する。
|
Causes of Carryover |
遺伝子発現解析として見込んでいた予算が、受託分析業者のキャンペーンにより安価に抑えられた。次年度は、その分を消耗品費として使用し、当初想定したよりも多彩な遺伝子経路に関する実験のため、各種試薬や物品の購入に充てる。
|
Research Products
(2 results)