2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K06733
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
大崎 雄樹 札幌医科大学, 医学部, 教授 (00378027)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脂肪滴 / 中性脂質 / PML / 液晶化 / 核内構造体 |
Outline of Annual Research Achievements |
コレステロールエステル(CE)とトリアシルグリセロール (TAG)から成る中性脂質をリン脂質一重膜が覆う構造である脂肪滴は、通常小胞体膜から形成される細胞質オルガネラであるが、核内にも存在する。我々は昨年度までに2つの核内脂肪滴形成機構を見出した。肝由来細胞では核内脂肪滴は小胞体内腔の中性脂質顆粒であるリポプロテイン前駆体に由来し、ホスファチジルコリン(PC)合成を活性化させて小胞体ストレスを軽減する装置として働き得る。一方非肝由来細胞では内核膜に本来小胞体に局在する脂質合成酵素群が存在し、核内で直接、中性脂質合成と脂肪滴形成が行われることを明らかにした。さらに細胞質脂肪滴の形成に重要な小胞体膜貫通タンパク質Seipinが、ジアシルグリセロール (DAG)合成酵素であるLipin1 betaの転写を抑制することで核内脂肪滴の形成を負に制御することを見出した。これらの成果は国際学術誌および国内学会において報告した。 一方、核内脂肪滴はタンパク質修飾や遺伝子発現制御に関与するPML小体と複合体を形成して存在することを以前に報告していたが、今年度はさらにグリーマ細胞において脂肪酸結合タンパク質FABP7が核内脂肪滴形成を促進し、脂肪滴-PML複合体が腫瘍増殖因子の転写を制御することを見出し、国際学術誌に発表した。 他方、実際の人の組織における核内脂肪滴の存在に関する報告はわずかであり、我々は肝疾患疑い患者の肝生検試料の電顕観察により、人の肝細胞内で実際に核内脂肪滴が頻繁に形成されることを見出し、国内学会において報告した。現在、疾患背景による形成頻度の相関を検討中である。また、核膜の変形を司る分子候補Tの発現量と核内脂肪滴および核膜陥入構造(NR)の形成との相関性を引き続き検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究内容の各項目に沿って記述する。 A. 核内脂肪滴の新規形成機序の解明:肝生検由来の人肝細胞観察により、核質内脂肪滴(真の核内脂肪滴)の他に細胞質脂肪滴の核膜陥入が存在することが判明した。二つの様式の核内脂肪滴は、疾患背景によりその形成頻度に差があり、現在統計的に優位であるか検討中である。一方、新たな核内脂肪滴形成機構の探索を継続した。小胞体膜、核膜の変形に関与し、その遺伝的変異がジストニアや細胞癌化の原因であることが報告されている、タンパク質Tおよびファミリー分子について、肝由来細胞Huh7を用いて発現量抑制、発現量亢進を行ったところ、核膜陥入および核内脂肪滴形成量に著しい変動が生じた。さらに一部のファミリー分子の過剰発現により、核全体の収縮とともに過剰な核内脂肪滴蓄積が生じた。他方、別のファミリー分子の過剰発現では細胞増殖停止とともに核内脂肪滴が顕著に減少した。これらの成果は国内学会において報告した。 B. 脂肪滴-核内構造体の間の相互作用: 核内脂肪滴はタンパク質修飾や遺伝子発現制御に関与するPML小体と複合体を形成して存在することを以前に報告していたが、今年度はさらにU251グリーマ細胞において脂肪酸結合タンパク質FABP7が核内脂肪滴形成および脂肪滴-PML複合体形成を促進し、腫瘍増殖因子の転写を亢進することを見出した。その遺伝子発現調節は、該当遺伝子上流のプロモーター領域のヒストンアセチル化亢進を介したものであった。これらの成果は国際学術誌に発表した。 C. 脂肪滴脂質の液-液晶相転移と脂肪滴局在分子機能との連関: 核内脂肪滴は液-液相分離によって形成される構造と考えられるPML小体と高頻度で複合体を形成するが、その結合機構および融合機序は不明であった。今年度はタンパク質結合機構の一つであるSUMO化の抑制が、脂肪滴-PML複合体形成を一部抑制することを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
核内脂肪滴の形成機序解明については、人肝細胞における核質内脂肪滴(真の核内脂肪滴)と細胞質脂肪滴の核膜陥入の二つの様式の核内脂肪滴が、いずれの疾患背景により高頻度に形成されるかどうかを判定するため、観察例数を増やすとともに統計的解析を進め、これまで鑑別のつかなかった肝障害の新たな病理診断基準の設立をめざす。さらに肝臓以外の臓器組織の生検試料についても電子顕微鏡観察および患者の病歴、治療歴と血液生化学、遺伝子発現プロファイリングを組み合わせ、核内脂肪滴形成を促進する分子機序を推定する。 新たに核内脂肪滴量の制御に関与することが示唆された分子群 Tについては、分子群Tが核膜変形を介して脂質合成酵素群の核内移行を制御する可能性、細胞分裂遅延によりG1/S/G2期のいずれかのフェイズを増加させ核内脂肪滴合成を亢進する可能性、神経細胞分化モデル細胞において脂肪滴形成と細胞寿命に関与する可能性などを追求する。 核内脂肪滴と他の核内構造体との相互作用については、核内脂肪滴とPML小体の融合機構がタンパク質間相互作用、脂質間相互作用、液-液相分離のいずれによるものかを同定する。またライブイメージングにより、両構造の形成と融合タイミングの時空間的解析を行い、脂肪滴コアの有無によるPML小体の安定性の違いを検討する。さらにPML小体局在分子が脂肪滴との融合有無により変動するかどうかを調べるために、プロテオーム解析を継続する。一方、先行して行った核内脂肪滴、PML小体、それぞれの形成量増加/減少条件の間での遺伝子発現量プロファイリング比較結果を解析し、核内脂肪滴-PML複合体により発現調節を受ける可能性のある分子候補を同定する。
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