2021 Fiscal Year Research-status Report
膜融合関連分子による細胞の極性形成および細胞増殖の調節機構の解明
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21K06734
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
國井 政孝 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80614768)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞極性 / SNARE蛋白質 / SNAP23 / Syntaxin3 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞内において膜蛋白質や分泌蛋白質を運ぶ輸送小胞と細胞膜との融合に働くSNARE蛋白質であるSNAP23とSyntaxin3の遺伝子欠損マウス(KOマウス)を用いて、上皮細胞の極性形成や細胞増殖におけるこれらの分子の機能を解明することを目的としている。 SNAP23、Syntaxin3は全身の多くの組織で発現するt-SNARE分子であり、全身でのKOマウスは胎生致死となることから、組織特異的KOマウスの作製を行った。神経組織特異的SNAP23 KOマウスでは発生中の大脳皮質脳室帯に存在する神経前駆細胞の極性異常が生じ、それに伴って新生ニューロンの遊走異常や細胞死が起きていることが明らかとなった。この原因を明らかにするためさらに解析を行った結果、SNAP23は神経前駆細胞において細胞間接着分子N-cadherinの頂端膜への局在化に重要であり、細胞間接着複合体の形成を通して神経前駆細胞の極性形成に寄与していることを明らかにした。さらに、N-cadherinの細胞膜局在化においてSNAP23と共同で働くSNARE蛋白質としてVAMP8とSyntaxin1Bを同定し、これらの研究成果を発表した。 Syntaxin3は上皮細胞の頂端面に局在するt-SNARE分子であり、頂端膜方向への極性輸送に重要と考えられている。小腸上皮特異的Syntaxin3 KOマウスを作製した結果、頂端面に局在する分子が細胞内へ異所的に局在する様子が観察され、Syntaxin3が小腸上皮細胞の極性形成に重要であることが示唆された。また、上皮細胞の細胞増殖の亢進が認められたことから、細胞極性の異常が増殖亢進へ関わっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では上皮細胞の極性形成や細胞増殖におけるSNARE蛋白質の機能を解明するため、組織特異的KOマウスを解析している。神経組織特異的SNAP23 KOマウスの解析は計画通りに進展し、SNAP23がVAMP8, Syntaxin1Bと共にN-cadherinの細胞膜局在化を促進し、細胞間接着複合体の形成を通して神経前駆細胞の極性形成に関与していることを明らかにした。この神経前駆細胞の正常な極性形成がその後の神経細胞への分化や層形成、細胞の生存に重要であり、正常な脳の発生へとつながることを明らかにした。 小腸上皮特異的Syntaxin3 KOマウスの解析もおおむね計画通りに進展している。KOマウスの小腸上皮細胞では頂端面に局在するアミノペプチダーゼなどの蛋白質が細胞内に溜まる様子が見られ、小腸上皮細胞の極性形成異常が示唆された。また、上皮細胞の増殖亢進が観察されたことから、極性形成の異常が細胞増殖の異常へとつながっている可能性が考えられる。増殖亢進の原因を特定するため、RNAseqやproteomicsによる解析を行い、増殖亢進の原因と考えられる分子の候補を同定した。今後はこの分子の輸送や分泌のメカニズムについて詳しく解析していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き小腸特異的Syntaxin3 KOマウスの組織学的解析や、小腸オルガノイドおよび腸管上皮由来の細胞株を使用した細胞増殖亢進の分子メカニズムの解明を進めていく。 まず、KOマウスの小腸における細胞極性の異常を頂端面の局在蛋白質や側底面局在蛋白質、各種オルガネラマーカーの免疫染色などによってさらに詳しく解析する。また、小腸上皮細胞の極性形成の異常がヒトの微絨毛萎縮症と関連している可能性があるため、頂端面の微絨毛の形態や微絨毛封入体を免疫染色や電子顕微鏡を用いて解析していく。さらに、頂端面に局在する蛋白質分子の輸送に影響が出ていることから、これらの分子の輸送がどのように変化しているか、細胞内でのライブイメージングなどによって解明していく。 細胞増殖亢進については、前述のとおりすでに原因となる増殖因子の候補を同定していることから、KOマウスの小腸上皮細胞における増殖因子の局在や分泌量の変化を解析していく。また、細胞極性の破綻と細胞増殖亢進との関連や、その分子メカニズムの解明に向けて、小腸オルガノイドや上皮細胞株の3次元培養を用いた増殖因子の細胞内輸送および分泌メカニズムの解析を行う。
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Causes of Carryover |
令和3年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響で国内外の学会がオンライン開催となり、学会参加のための旅費として計上していた経費の未使用が生じた。 また、研究活動にも若干の影響が生じ、消耗品の購入や動物の維持管理費用なども想定額より少額となったため次年度への繰り越しが生じた。 令和4年度は国内外の移動や研究活動の制限が緩和されることが期待できるため、学会参加や研究活動において昨年度よりも使用額が増加することが予想される。従って、当初の予定通り計画的に使用できるものと考える。
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Research Products
(1 results)