2021 Fiscal Year Research-status Report
体温調節中枢の局所神経回路と司令塔メカニズムの解明
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21K06767
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 佳子 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (60548543)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | プロスタグランジン / 体温調節 / 恒常性 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳の視床下部にある視索前野は、脳血液関門の脆弱な脳室周囲器官に近接し、末梢由来の神経情報や液性情報を受け取って統合した後、体温調節をはじめとした生体維持に必要な末梢効果器調節を指令する司令塔であると考えられている。しかしながら、視索前野の局所神経回路は不明であるため、どのように情報を統合し、末梢効果器に司令を出力するのか不明である。そこで、発熱メディエーターであるプロスタグランジンE2の受容体、EP3を発現する視索前野ニューロンに焦点を当て、視索前野EP3発現ニューロンが発熱だけではなく平時の体温の維持にも関わる司令塔の役割を果たしているのではないかと仮説を立て、研究を行った。ラットを暑熱あるいは室温の環境に2時間おき、活性化ニューロンのマーカーであるc-fosの発現を調べた。その結果、暑熱環境下では視索前野のEP3発現ニューロン群におけるc-fosの発現が有意に増加した。このことから、視索前野のEP3発現ニューロンは温覚に応答して活性化する特性を持ち、感染時のみならず平常時でも体温の維持に関わることが示唆された。また、温覚応答性を持つ視索前野のEP3発現ニューロンの組織化学的特性を調べるために、暑熱環境と室温環境に曝したラットそれぞれの脳組織をin situハイブリダイゼーションと免疫組織染色を組み合わせて検討した。その結果、視索前野EP3発現ニューロン群にはGABA作動性とグルタミン酸作動性ニューロンがあり、どちらのニューロン群にも温覚応答性を持つものが存在した。そこで、個々のEP3発現ニューロンの温覚応答性の有無と、含有する神経伝達物質(GABA or グルタミン酸)を調べ、視索前野での分布地図を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
視索前野のEP3発現ニューロン群は多様な性質を持つ集団である。しかしながら、その神経特性などは不明な点が多いため、サブグループに分類する必要があった。分類するにあたり、視索前野のEP3発現ニューロンが発熱の惹起のみならず平常時の体温調節にも関わるのではないかと仮説を立て、視索前野のEP3発現ニューロンの温覚応答性を調べた。活性化ニューロンのマーカーであるc-fosを発現する神経細胞を神経活動の亢進した細胞とし、EP3受容体に対する抗体を用いて共染色することで、EP3発現ニューロンの温度感受性の有無を調べた。その結果、視索前野EP3発現ニューロン群の一部は暑熱環境で活性化することが明らかとなった。また、暑熱環境で活性化したEP3発現ニューロンの組織化学的特性を調べるために、免疫組織染色とin situハイブリダイゼーションを組み合わせて個々のEP3発現ニューロンの神経伝達物質を調べ、それらの特性ごとに分類して数を数え、分布地図を作成した。その結果、これまで不明であった視索前野EP3発現ニューロン群の特性の一部がわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
視索前野の下流にある体温調節に関わる脳領域へ投射する視索前野EP3発現ニューロンの組織化学的特性を解析し、温覚応答性EP3発現ニューロンの性質を詳細に解析する。また、EP3ニューロンの視索前野内での軸索投射を可視化し、三次元構築を行うことで、視索前野領域の局所情報伝達をどのように統合しているのかを立体的にイメージング解析する。さらに、視索前野のEP3発現ニューロン群特異的に光感受性カチオンチャネルなどを発現させ、光刺激により活動を変えることで生じる生理的な反応をin vivo解析する。
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Causes of Carryover |
参加予定にしていた海外の学会が現地開催のみになったため、昨今のコロナ禍の現状を考えて参加を見送った。また、国内の学会に関しても、現地に行かずオンラインでの参加にとどめたため残額が出た。残額は次年度以降コロナ禍の状況が改善するならば、積極的に学会に参加し、研究成果を報告するために使用する。また、研究の進行に伴い必要となる抗体や動物の費用に当て、有効に活用する。
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Research Products
(2 results)