2021 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病網膜症の病態形成におけるYAP/HIF-1α複合体の役割
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21K06787
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
柏原 俊英 北里大学, 薬学部, 講師 (20552334)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 糖尿病網膜症 / 高血糖 / 網膜 / グリア細胞 / YAPシグナリング |
Outline of Annual Research Achievements |
Yes-associated protein 1 (YAP) は、Hippo情報伝達経路の最終的なエフェクターとして、細胞の生存、増殖、エネルギー代謝などを制御する重要な転写共役因子である。研究代表者は、最近、YAPの活性化が転写因子HIF-1αを介して解糖系のファーストステップを担うGLUT1の発現を誘導することを見出した。HIF-1αの活性化は糖尿病網膜症の病態形成と密接に関わることが知られている。そこで本研究では、糖尿病モデルラットの網膜においてYAPが活性化しているか否か、YAPとHIF-1αの相互作用が糖尿病網膜症の病態形成に関与しているか否かを明らかにすることを目的とした。本年度では先ず、ストレプトゾトシン(STZ)投与誘発性1型糖尿病モデルラットを作製しその病態の確認を行った。Vehicle投与群に比べSTZ投与群は、投与1週間後から3ヶ月後まで顕著な体重減少と高血糖を示した。STZ投与群では網膜のストレスマーカーであるGFAPの発現量が2ヶ月後から徐々に増加した。STZ投与2ヶ月後においてYAPの発現量の増加傾向とYAPの活性化を示す非リン酸化YAPの割合の増加が認められた。このことから、STZ投与2ヶ月後においてYAPの活性化が示唆された。網膜は、視細胞、神経細胞、グリア細胞など複数の細胞で構成される器官である。そこで免疫組織染色法でYAPの発現分布を調べた結果、Vehicle投与群及びSTZ投与群いずれにおいてもYAPはミュラーグリア細胞に多く存在していたが、STZ投与群の方がVehicle投与群に比べミュラー細胞におけるYAPのシグナルが強かった。これらの結果より、高血糖によりミュラー細胞のYAPが活性化することが示唆された。今後は、高血糖によりYAPシグナリングが変化する分子機序とHIF-1αの解析を行うことで、糖尿病網膜症の病態生理の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は、これまでYAPの活性化が心筋細胞のGLUT1発現を誘導し、解糖系を亢進することを見出してきた。即ち、YAPが糖代謝の制御に重要な役割を担うことを明らかにしてきたが、糖尿病時の網膜におけるYAPの役割は明らかにされていなかった。そこで今回研究代表者は、ストレプトゾトシン(STZ)投与誘発性1型糖尿病モデルラットを作製し、その網膜のタンパク質レベルを経時的に解析することでYAPの機能評価を行った。先ず、STZの効果を体重と血糖値の測定により評価した。Vehicle投与群に比べSTZ投与群は、投与1週間後から3ヶ月後まで顕著な体重減少と高血糖を示した。これより、1型糖尿病モデルラットが問題無く作製できていることが確認できた。このSTZ投与ラットの網膜では、網膜ストレスマーカーのGFAPの発現がSTZ投与2ヶ月後より徐々に増加したことから、このモデルは糖尿病網膜症初期から病態形成に至るまでのYAPの機能評価に適していると考えられた。そこで、続いてYAPの発現量とリン酸化レベルの変化を測定し、YAPの活性化状態を評価した。STZ投与2ヶ月後の網膜においてYAPの発現量の増加傾向と不活性型であるリン酸化YAPの低下が認められた。即ち、糖尿病時の網膜においてYAPの活性化が示唆された。免疫組織染色法によりYAPの発現細胞の同定を試みた結果、Vehicle投与群及びSTZ投与群いずれにおいてもYAPはミュラーグリア細胞に多く存在していることが分かった。このミュラーグリア細胞におけるYAPのシグナル強度は、Vehicle投与群に比べSTZ投与群の方が強かった。このことから、糖尿病時の網膜ではミュラーグリア細胞のYAPが活性化している可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、STZ誘発性1型糖尿病モデルラットにおいて、HIF-1α及びYAPを制御するHippo情報伝達経路の関与を調べる。また、YAPの活性化を確認するために、YAPの標的遺伝子の発現量の変化を調べる。具体的には、網膜におけるこれらの因子の発現レベルをmRNA又はタンパク質レベルで解析し、免疫組織染色法にて変化のある細胞を同定する。糖尿病では高反応性糖代謝物のメチルグリオキサール(MGO)の血中濃度が増加し病態形成に働くことが示唆されている。そこで、MGOの眼内投与による網膜傷害とYAPシグナリングとの関係を調べることで糖尿病網膜症におけるYAPの機能的役割を明らかにする。網膜は種々の細胞で構成される器官でありin vivo実験だけではミュラーグリア細胞のYAPの機能を知ることは難しい。そこで、ラットミュラーグリア細胞株rMC-1細胞を用いたin vitroの実験を組み合わせ、ミュラーグリア細胞におけるYAPの機能的役割を明らかにする。rMC-1細胞は既に入手済みであり、実験を行うための準備は整っている。
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