2021 Fiscal Year Research-status Report
光作動性シナプス可塑性制御ツールを用いた海馬LTDの生理機能の探索
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21K06788
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊藤 政之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (20442535)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海馬 / LTD / シナプス可塑性 / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、申請者の所属する慶應義塾大学・柚崎研究室で開発された光作動性LTD阻害すツール(PhotonSABER,Kakegawaら,Neuron 99: 985, 2018)を利用し、空間記憶・学習に関与している海馬で観察される長期抑圧(long-term depression:LTD)と直接的な因果関係を示す個体レベルでの生理機能の解明を目的とした。 本年度、既に樹立済みのCre依存的にPhotonSABERを発現するノックインマウス(PhotonSABER-LSL)に、これと前脳の興奮性神経細胞特異的にCreを発現するトランスジェニックマウス(CaMKII-Cre)を掛け合わせ、海馬CA1錐体細胞にPhotonSABERを発現する遺伝子改変マウス(CaMKII-Cre;PhotonSABER-LSL)を作製し、免疫染色により大脳皮質や扁桃体、海馬でのPhotonSABERの発現を確認した。 次にPhotonSABERが光依存的に機能するかどうか海馬の急性スライス標本を用いて確認を試みた。しかしながらPhotonSABERの活性化に必要な強度(およそ1000 lux以上)の光刺激を海馬スライスに行うと、CA3-CA1シナプスのevoked EPSCが顕著に抑制されてしまうことが判明した。そこで、この光毒性を抑えるためスライス実験中の細胞外液に種々の抗酸化剤を添加し、アスコルビン酸やビタミンE誘導体を加えることで光刺激(1000 lux程度までであれば)によるevoked EPSCの抑制を防ぐことのできる実験条件を確立する事が出来た。ところがこの光毒性が低減された条件(抗酸化剤の添加、1000 lux程度での光刺激)ではPhotonSABERで海馬CA3-CA1シナプスのLTDを抑制する事が出来なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度、海馬急性スライス標本を用いてPhotonSABERが海馬CA1のLTDを実際に抑制できるかどうか確認実験を行ったが、小脳プルキンエ細胞とは異なり、海馬CA1錐体細胞では光刺激によるevoked EPSCの抑制(光毒性によるものと想像される)が著しく、研究の進捗が大きく停滞した。抗酸化剤による光毒性の低減の検討を行い、アスコルビン酸とビタミンE誘導体により1000 lux程度の光刺激であれば、ほぼ光毒性が見られない条件を確立する事が出来たが、この条件ではPhotonSABERで海馬CA1のLTDを抑制する事が出来ず、PhotonSABERの活性化にはより強い光刺激を行うか、もしくは樹立済みのCaMKII-Cre;PhotonSABER-LSLマウスより高発現の状態での実験が必要なのではないかと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画で目的としている海馬LTDと直接的な因果関係を示す個体レベルでの生理機能の解明のためには、まずは海馬急性スライス標本でのPhotonSABERによるLTDの阻害実験は必要不可欠であり、その確立のため上述のようにより強い光刺激(およそ1000 lux以上)でも光毒性を抑制できる実験条件の確立、およびよりPhotonSABERが高発現する条件での検討が不可欠であるように考えられる。後者についてはアデノ随伴ウィルス(AAV)またはレンチウィルスベクターを用いた強制発現実験を検討中で、特にPHP.eBカプシドを用いたAAVベクターは静脈投与により脳全域に渡り遺伝子発現をさせることが可能であるため、スライス実験後の行動実験への適応を考えて第一選択肢として計画をしている。
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Causes of Carryover |
今年度の急性脳スライス標本での実験の進捗が大幅に遅れたため、そこで使用予定であった幾つかの阻害剤の購入を行わなかった。実験自体は今後実施予定のため次年度に購入を予定している。
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