2021 Fiscal Year Research-status Report
PDZRN3による核内のパラスペックルを介した新たな心筋分化制御機構の解明
Project/Area Number |
21K06803
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
本田 健 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (30457311)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朝霧 成挙 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20372435)
酒井 大樹 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40464367) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 液液相分離 / 細胞分化 / 心筋細胞 / パラスペックル / PDZRN3 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまで、間葉系細胞分化においてPDZRN3蛋白質が脂肪細胞や骨芽細胞分化を抑制し、骨格筋分化を促進することを示してきた。PDZRN3は我々が心臓からクローニングしてきた遺伝子であり、心筋細胞に強く発現が見られるものの、これまで心筋における役割は不明であった。そこで本研究では、PDZRN3の心筋分化における役割を解明することを目的としている。特に、未分化細胞の分化に重要な役割を担うパラスペックル(核に存在する液液相分離体)とPDZRN3との関連に着目した。初年度では、まずPDZRN3の心筋細胞における重要性や、パラスペックルの心筋分化における発現挙動や分化への影響など基礎的なデータを取得した。PDZRN3の心臓への影響については、PDZRN3ノックアウトマウスおよび野生型マウスとの比較を中心に解析を行った。心臓組織におけるPDZRN3の発現量は胎児期から増加し、単離した幼若心筋細胞あるいはiPS細胞を用いたin vitro系では心筋前駆細胞の段階からPDZRN3の発現誘導が観察された。一方、PDZRN3ノックアウトマウスでは心臓が矮小化すること、また生後1週間の死亡率が有意に上昇する知見を得た。さらに、PDZRN3の欠損により、新生仔心筋ではBMP10などの心筋成長に必須の因子が著減することを見出し、心筋発達においてPDZRN3は重要な役割を持つことを明らかとした。並行して、in vitro細胞分化モデル系における、パラスペックルの形成(構成因子の発現挙動)を解析し、PDZRN3とパラスペックル構成因子の時空間的な重なりを確認した。それらの情報をもとに、PDZRN3とパラスペックル構成因子の相互作用解析を行うべく、サンプリングにおける条件最適化の検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心臓の発達や心筋細胞分化におけるPDZRN3およびパラスペックルの役割については、ほとんど報告がない。そのため初年度は、まずそれらの解析に必要な(抗体などの)分子ツールの準備や、発現量解析など基礎的なデータや条件検討を実施してきた。パラスペックルはLong non-coding RNAとそれに結合するRNA結合タンパク質群が高度に会合、凝集を起こして相分離した構造体である。特に、代表的なパラスペックル構成タンパク質SFPQ,PSCP,NONOなどを中心に解析を進める予定であったが、一部、発現量等を解析するのに適切・良好な抗体を得られなかったことや、コロナ禍の影響で抗体をはじめとした一部の試薬が入手に長期を要するなど、不可抗力による遅延が想定外に生じている。一方、PDZRN3の心筋細胞における重要性の調査では、PDZRN3に関する生化学的・分子生物学的な解析ツールやノウハウの蓄積があったため、in vitroの細胞分化におけるPDZRN3の解析については順調な進捗であった。また、ノックアウトマウスに関しては以前より準備、基礎データの収集を進めていたこともあり、in vivoでのフェノタイプ解析や単離心筋を用いた解析は予想以上に早く進展し、総じて全体的な進行度は順調であり、想定の範囲内だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
PDZRN3とパラスペックル構成因子との相互作用解析を中心に進めていく。パラスペックルは液液相分離体を形成しているため、通常の溶質とは物理化学的性質が異なるため、例えばPDZRN3との非特異的な結合などに対して慎重に実施していく予定である。また、パラスペックル中には複数の構成タンパク質が含まれるため、どの因子にPDZRN3が直接的に結合するのかなど、より詳細な相互作用因子の絞り込みを実施していく。結合解析の一手法としてPDZRN3との共免疫沈降法を実施しているが、共沈降してくるタンパク質群の検出については、パラスペックル構成タンパク質を標的とする抗体によって“狙い撃ち”にする方法も実施するが、構成タンパク質によっては適切な抗体がないため、また予期せぬ相互作用相手が仲介する様式も考慮する必要があるため、ショットガンMS/MSによる網羅的な解析を行い、パラスペックルに直接あるいは間接的に関わる(あるいは関わらない未知因子も含めた)タンパク質についても、心筋分化時におけるPDZRN3の相互作用相手候補として、解析を進めていく。 初年度において、PDZRN3ノックアウトマウスにおけるフェノタイプでは、生後1週間における死亡率の増加という興味深い結果が得られた。マウス心臓において、生後1週間という期間は心筋細胞内の代謝経路が嫌気的から好気的代謝に大きく変動する時期である。また好気呼吸代謝の活性化はDNA損傷を増加させ、心筋細胞の分裂・増殖能力の喪失につながることが知られている。PDZRN3ノックアウトマウスの心筋細胞において、好気呼吸代謝への移行、ひいては増加するDNA損傷がPDZRN3の欠損によってどのような変調をきたすのか、またそれらの死亡率増加との関連性は非常に興味深い。これに加え、挑戦的ではあるがパラスペックルとの関係性についても検討していきたいと考えている。
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Research Products
(4 results)