2021 Fiscal Year Research-status Report
エピゲノム制御を介した転移性乳がん発生機構の解明と新規乳がん治療法の開発
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21K06829
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
古室 暁義 近畿大学, 医学部, 講師 (50512274)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Histone demethylase / 乳がん / エピジェネティクス / 転移 / Super Enhancer / 発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
Histone demethylaseのUtxはヒストンH3の27番目のリジン(H3K27)のメチル基を取り除き転写を制御する。乳腺組織得意的にUtxを欠損させたマウスと乳がん発症マウス(MMTV-PyMTマウス)の複合変異を持つ乳がん発症マウス (Utx KO; PyMTマウス)では、腫瘍増殖や肺転移が促進し、乳がんの悪性化を起こしていた。Utx KO; PyMTマウス由来の乳がんオルガノイドを樹立して、遺伝子発現やFACS解析を行ったところ、Basal typeの細胞が増えていることが分かった。 マウス乳がん細胞株4T1細胞にLuciferase と赤色蛍光タンパク質であるtdTomato (dimeric Tomato遺伝子のタンデム2量体)を安定発現する細胞株: 4T1-Luc/Tomato細胞を樹立した。この細胞株をBALB/cマウス乳腺に同所移植することで、原発腫瘍および肺転移形成をin vivoイメージングシステムでモニターすることに成功した。Crispr/Cas9 systemによって、4T1-Luc/Tomato細胞のUtxの発現を抑制し、同所移植すると腫瘍増殖が促進し、マウス尾静脈より移植すると肺転移や骨転移も観察された。 転写因子Xは様々ながんで発現が亢進し、浸潤・転移を促進する因子として報告がある。Utx KO; PyMTマウス由来の乳がんオルガノイドでは、転写因子Xの発現増加を伴いながら、I型コラーゲン内の浸潤・増殖が引き起こされているという結果が得られた。Utx KO; PyMT乳がんオルガノイドにおいて、Crispr/Cas9 systemによって転写因子Xの発現を抑制し、マウス尾静脈より移植したところ、肺転移が抑制される結果も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Utx欠損とMMTV-PyMTの複合変異を持つ乳がん発症マウス(Utx KO; PyMTマウス)では腫瘍増殖や肺転移が促進していることが分かった。 マウス乳がん細胞株4T1細胞にLuciferase と赤色蛍光タンパク質であるtdTomatoを安定発現する細胞株: 4T1-Luc/Tomato細胞を樹立した。野生型BALB/cマウス乳腺に同所移植することで、原発巣および肺転移形成をin vivoイメージングシステムでモニターすることに成功した。この細胞株をCrispr/Cas9 systemによってUtxの発現を抑制し、マウス乳腺へ同所移植すると腫瘍増殖は促進し、マウス尾静脈より移植すると肺転移や骨転移も観察された。さらに肺転移巣・骨転移巣から肺転移株・骨転移株も樹立することができた。 Rosa26 Green Red Reporter マウスとUtx KO; PyMT マウス、およびヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル基を取り除き転写を制御する Histone demethylase:KDM4Bを乳腺特異的に欠損させた乳がん発症マウス(KDM4B KO; PyMTマウス)との掛け合わせを行った。Rosa26 Green Red Reporter マウスは、Cre/loxP リコンビネーションが起きると緑色GFPから赤色RFP蛍光タンパクに変化することで検出可能な Cre レポーターマウスである。その結果、Rosa26 Green Red Reporter が組み込まれたKDM4B KO; PyMT乳がん発症マウスを樹立することができた。このマウスではRFP陽性の乳がん組織部位が観察され、この乳がん組織から乳がんオルガノイドを樹立することにも成功した。Utx KO; PyMTマウスにおいても出生マウスが得られており、現在、確認中である。
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Strategy for Future Research Activity |
様々ながんで発現が亢進し、浸潤・転移を促進する転写因子Xについて、Utxの欠損による発現上昇のメカニズムを明らかにする。現時点で、転写因子X近傍のSuper Enhancerによる発現制御が考えられ、CUT&RUNと次世代シークエンスの手法を用いたSuper Enhancer領域の活性化状態の検出を試みる。 Utxの発現を抑制した4T1-Luc/Tomato細胞から肺転移株・骨転移株を樹立することができた。これらを用いて、マウス乳腺への同所移植を行い、血中内のtdTomatoで標識された循環性がん細胞をセルソーターで同定・回収できる系を構築する。 Rosa26 Green Red Reporter が組み込まれたUtx KO; PyMT乳がん発症マウスも作成中であり、樹立後はUtxが欠損したBasal-like typeの乳がん細胞がRFPで標識されていると予想している。乳がん組織部位の観察や転移巣、血中循環がん細胞も赤色RFPを発現していると予想され、同定・回収を試みる。 これまでにUtx KO; PyMTマウス由来乳がんオルガノイドの遺伝子発現解析から様々なケモカインの発現が上昇していることが分かっている。Utx KO; PyMTマウスの転移巣に集積する免疫細胞を観察するとともに、転移巣のがん細胞を回収後、遺伝子発現を調べ転移細胞に特徴的な性質を明らかにする。
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Causes of Carryover |
Utx欠損と、様々ながんで発現が亢進し、浸潤・転移を促進する転写因子Xの発現制御について、Super Enhancer領域の活性化状態を調べるだけでなく、がんの悪性化に関与する様々な因子のSuper Enhancer領域の状態についても調べることを目的に、CUT&RUN法、および次世代シークエンスを用いた網羅的な解析を行うことにした。このための経費の必要性から次年度への使用額が生じた。
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Research Products
(6 results)