2021 Fiscal Year Research-status Report
マウスモデルと臨床材料を用いた大腸がん幹細胞の転移機構の解析
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21K06948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柿崎 文彦 京都大学, 医学研究科, 助教 (00609076)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武藤 誠 公益財団法人田附興風会, 医学研究所, 所長 (70281714)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん幹細胞 / TRIO / 予後不良 / 大腸がん / がん転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸がんは死亡率が高いがんの一つであり、大腸がんの死因の殆どは遠隔臓器への転移によるため、その機序解明及び治療法の確立が急務である。本研究では患者由来の大腸がん幹細胞を用いて分子的な解析を進めることで、臨床例での機序の解明と治療標的の同定を目的としている。予後不良TRIO(pY2681)陽性大腸がん患者がん幹細胞株を用いて、がん幹細胞が有する転移機構の解析 と、TRIO経路シグナル伝達へのクロストーク機構の解析を行う。本研究では大きく6つの実験を計画していた。そのうちの下に示す前半3つを本年度までに作業した。 (1)大腸がん患者由来のがん幹細胞株ライブラリーを樹立する。 (2)予後不良大腸がん患者由来のがん幹細胞株を抽出する。 (3)予後不良大腸がん患者由来の大腸がん幹細胞のトランスクリプトーム解析を行う。 上記(1)と(2)に関してはこれまでに蓄積された臨床材料とそれに関わるデータを既に所有していたので、比較的短期間で進行した。想定の範囲内であるが、本年度に最も時間・労力・費用を要したのは(3)のトランスクリプトーム解析であった。この解析により、予後不良大腸がん患者由来のがん幹細胞の代表的な発現プロファイルと、患者生存に関わるマーカー遺伝子群が得られた。これらの結果から当初の計画では考えていなかったアイデアが浮上し、本研究がより大きく発展する可能性が出てきた。これらのことから当初の目標に加えて 大腸がん幹細胞の発現プロファイルの基準となるレファレンス細胞を決定するという新たな目標を次年度の計画に追加する必要性が出てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに樹立した患者由来大腸がん幹細胞ライブラリー 約200症例の中で、TRIO(pY2681)陽性大腸がん患者由来のがん幹細胞株を含む57株を解析した。本年度のトランスクリプトーム解析から転移関連マーカーとして有力な遺伝子群を同定し、その多くが大腸がん患者の全生存期間・無再発生存期間・無病生存期間等に負もしくは正の相関を示す予後マーカーであることを見出した。これらをもって本年度の目標である代表的な大腸がん幹細胞のトランスクリプトーム解析が終了した。この知見は臨床的に重要であることが明らかであったため、現在 この予後マーカーを用いた予後診断と化学療法の選択に関する特許申請の準備を進めている。同時並行して、この発現解析の結果を論文としてまとめており、論文投稿の準備も進めている。大腸がん幹細胞ライブラリーの保管や医の倫理に関して、また特許申請・論文執筆に関する作業に関しては研究分担者と協力して滞りなく作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の大腸がん幹細胞のトランスクリプトーム解析の中で、遺伝子発現変化の基準設定の重要性が示された。基準を設定するための計算方法や基準となる細胞の種類によって候補として得られるマーカー遺伝子群の種類や解釈が変化した。その中でも様々な工夫と試行錯誤の甲斐もあり、我々が設定した現時点での基準を用いて、代表的な大腸がん幹細胞の発現パターンとそれをリードする遺伝子群を得ることができた。この経験を踏まえ、且つ今後の発展につなげるために、二年目の目標を2つ追加する。それは異常な大腸がん幹細胞の発現プロファイルの基準となる最適なレファレンス細胞の選択と、これらの細胞を用いた際の解析条件の絞り込みで、可能な限り高解像度で比較解析すべきであると考えている。この追加の目標と当初の目標の、両方が達成できるように計画を調整している。
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Causes of Carryover |
本年度において研究分担者が研究費を使用しなかった理由は、1. 研究の進行度とそれに関わる分担者の作業内容を前もって完全には予想できなかったこと(本年度に予想外の研究成果が得られ、急遽 特許申請の準備や論文原稿の作成を行なった)、2. 前もって準備した作業環境が充分であったため 新たに物品を購入する必要性が生じなかったこと 等が挙げられる。 次年度に繰り越した予算を用いて、研究成果である論文作成に必須なソフトウェアを購入する予定であり、そのほかにも研究遂行に必要な会議開催の費用に充てる予定である。
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