2022 Fiscal Year Research-status Report
ヒト疾患iPS細胞を利用した膵・腸管異常症の解明と再生医療への応用
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21K06970
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤倉 純二 京都大学, 医学研究科, 助教 (70378743)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 膵 / Mitchell-Riley症候群 / RFX6 / レチノイン酸 / RARE / 内胚葉 / 腸管 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中で我々が樹立したRFX6 +/eGFPヘテロノックイン ヒトiPS細胞を利用し、RFX6発現の上流制御機構について検討を行った。day4に胚体内胚葉を誘導、その後day10原始腸管誘導でのRFX6の発現が確認できるin vitro誘導系を用いて、胚性内胚葉から原始腸管レベルに至るまでに使用している3種の低分子化合物のいずれが決定的な要素であるかを検討し、、RFX6/GFP、前方前腸マーカーSOX2,後方前腸マーカーPDX1、中後腸マーカーCDX2にPDX1、CDX2発現上昇を引き起こし、SOX2発現に対しては抑制的な作用を。 レチノイン酸は主にレチノイン酸受容体RARのアゴニストとして、また部分的にレチノイン酸X受容体RXRへのリガンドとして働き、RARとRXRはヘテロダイマーを形成して、DNA上のレチノイン酸応答エレメントRAREに特異的に結合することが知られている。前述のレチノイン酸のRFX6発現上昇への寄与については、RARアゴニストAm80を用いた実験で再現でき、RARを介した働きであることが確認できた。また、RFX6上流の候補RAREモチーフに対するRXR-RARヘテロダイマーの直接的な結合を、ゲルシフトアッセイを用いて確認した。RARA蛋白単独、RXRA蛋白単独では有意なシフトバンドを認めず、両蛋白を加えた時のみシフトバンドが確認され、非ビオチン化プローブにて競合阻害できた。これらから、候補RAREはRXR-RARヘテロダイマーに対して特異的に結合できることが確認でき、上流制御機構につき想定される機序の一端を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、腸管形成不全や膵低形成を来す先天疾患であるMitchell-Riley症候群の原因遺伝子、また、近年、若年発症成人型糖尿病(Maturity-Onset Diabetes of the Young, MODY)の原因遺伝子の一つとしても捉えられているRFX6に着目している。RFX6は内胚葉系に発現が限局しており、原始腸管(中・後腸)、腸管内分泌前駆細胞及びGIP産生細胞、成熟膵β細胞等での特異的発現が認められていることから、膵・腸管初期発生段階及び膵内分泌細胞、腸管内分泌細胞段階での役割が示唆される。 RFX6研究における課題点として、免疫染色で十分な感度を持った抗体が無いこと、前述の各発生段階における上流・下流を含めた遺伝子制御機構の詳細が十分に解明されていなかったことから、レポーター遺伝子eGFPをRFX6遺伝子5’非翻訳領域直下にヘテロノックインしたヒトiPS細胞株、及びホモノックイン(ノックアウト)ヒトiPS細胞株を樹立し、これらの課題に取り組んでいる。 これまで、本研究の中で膵・腸管発生の中で重要な役割を果たす原始腸管レべルでのRFX6の下流制御機構について検討を行い、その機序を解明した。今回、さらに同レベルでの上流制御機構について確認することができた。これまでレチノイン酸とRFX6の関係性に言及した既報は乏しく、レチノイン酸合成系に必要な酵素であるレチナール脱水素酵素サブタイプRaldh2のノックアウトマウスの初期胚体幹部分のDNAマイクロアレイ解析でRfx6発現が低下していた、という知見があるが、今回我々は、ヒト原始腸管レベルでのレチノイン酸とRFX6のより直接的な関係を確認することができており、この発生段階におけるRFX6上流制御機構の一端を解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、これまで内胚葉発生分化初期段階である原始腸管レベルでのRFX6の上流・下流遺伝子制御機構についての解析を行ってきた。下流機構については網羅的解析により細胞接着因子の関与も示唆されたため、臓器発生異常と細胞接着因子との関連についても検討する。 また、さらに成熟した発生段階である膵内分泌細胞、腸管内分泌細胞レベルでの上流・下流遺伝子制御機構について、成熟膵誘導あるいは腸管誘導を行い、病態生理学的意義を踏まえ検討を進める。成熟膵内分泌細胞誘導についてはインスリン陽性細胞の誘導効率を高める必要があり、これまで行ってきた平面培養から、3D培養系への変更も検討している。腸管内分泌細胞誘導については、現時点でヒトiPS細胞からの十分かつ安定的な誘導系が確立されていない。in vitro腸管オルガノイド誘導系のみでは十分な増殖、分化を得られなかったことから、in vitro誘導後のin vivo成熟を行うべくballooning後の未熟オルガノイドの移植実験を試みたが、ハンドリングへのオルガノイドの脆弱性による細胞死、細胞残存不良という実験障壁があり、ballooning前のsolidな状態での細胞移植を検討する。 また、派生的な研究として、Mitchell-Riley症候群で報告が散見されるヘモクロマトーシスの病態生理、及びRFX6の鉄代謝に対する生理的意義を解明することを目的として、本研究で樹立したレポーター細胞株を利用し、肝細胞誘導系を用いた鉄代謝動態、鉄輸送関連遺伝子の変化についての評価を検討している。
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