2021 Fiscal Year Research-status Report
授乳期に特異的なマラリア病態とその分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K06997
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
新倉 保 杏林大学, 医学部, 講師 (30407019)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | マラリア / 授乳期 / 乳腺組織 / 乳腺炎 / 比較プロテオーム / IFNGR1 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染性乳腺炎は、主に細菌感染が原因であると考えられている。一方、全身性の炎症を引き起こすマラリアでも乳腺炎を発症する可能性があるものの、マラリアが乳腺炎の発症に直接関与しているかどうかは明らかにされていない。そこで本研究では、マラリアのマウスモデルを用いてマラリアと乳腺炎の関係について調べることを目的とした。 出産後7日目のマウスにマウスマラリア原虫の強毒株であるPlasmodium berghei ANKAを感染させたところ、妊娠/出産していない感染マウス(対照マウス)と比較して早期に脳症を引き起こし死亡した。全身剖検の結果、出産後のマウスの乳腺組織に病変が認められた。そこで、乳腺組織の病理組織学的解析を行ったところ、乳腺組織の崩壊と白血球の浸潤が観察された。仔の体重を測定したところ、マラリア原虫を感染させたマウスの仔の体重は、非感染マウスの仔と比較して有意に減少した。 次に乳腺組織の分子発現変化を明らかにするためにマラリア原虫を感染させたマウスと対照マウスの乳腺組織からタンパク質を抽出し、比較プロテオーム解析を行った。その結果、マラリア原虫を感染させたマウスの乳腺組織においてIFN-γ receptor 1 (IFNGR1) シグナル関連分子が著しく増加していることを見出した。そこで、IFNGR1を欠損したマウスにマウスマラリア原虫を感染させたところ、、IFNGR1欠損マウスの乳腺組織に病変は起こらず、仔の体重は非感染マウスの仔と同レベルであった。これらの結果から、授乳期のマラリアでは、IFNGR1依存的な乳腺炎を併発することが明らかになった。 本研究で得られた成果をまとめ、PloS ONEに投稿し受理された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究によって以下の結果が得られた。 1.授乳期のマラリアでは、IFNGR1依存的な乳腺炎を併発する 2.授乳期のマラリアでは乳腺炎による乳房の痛みや腫れ、発熱などを来たしている可能性があり、これらの徴候はマラリアの早期診断に有用であると考えられる。 本研究で、授乳期のマラリアにおいて乳腺炎を併発することを見出した。よって、本年度の目的は達成された。
|
Strategy for Future Research Activity |
マラリアのマウスモデルを用いて、授乳期に特異的なマラリア病態について引き続き解析を行う。 「マラリア流行地に居住する女性の授乳期マラリアと乳腺炎との関係 」 マラリア流行地に居住する女性(マラリア原虫に対する免疫を獲得した女性)の授乳期マラリアにおいて乳腺炎が併発するかどうかを、マウスモデルを用いて検証する。マウスモデルは、マウスに弱毒株マラリア原虫を接種してマラリア原虫に対する免疫を賦与した後、交配・出産した後に強毒株マラリア原虫を接種することで作出する。仔の体重変化を観察するとともに、母体の乳腺組織を採取し、組織学的解析および比較プロテオーム解析とRNA-seqを行うことで乳腺病変部の形態変化と分子発現変化をそれぞれ解析する。 「授乳期に特異的な新たなマラリア病態の解明」 強毒株マウスマラリア原虫に加え、弱毒株マウスマラリア原虫も用いてマラリアのマウスモデルを作出し、病態の解析を行う。病変が認められた臓器からタンパク質を抽出し、比較プロテオーム解析により分子発現変化を網羅的に解析する。
|
Causes of Carryover |
本年度、試薬代を節約できたため次年度使用額が生じた。 次年度、この予算で授乳期のマラリアの病態解析に係る試薬等の消耗品の購入を計画している。
|