2022 Fiscal Year Research-status Report
大規模ゲノム情報を利用した大腸菌における血清型変換の全貌解明
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21K07006
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 佳司 九州大学, 医学研究院, 講師 (60706216)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大腸菌 / O抗原・H抗原 / 血清型変換 / Sequence type / 比較ゲノム解析 / 志賀毒素産生性大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌の血清型別に利用されるO抗原とH抗原は、合成遺伝子領域の組換えによって変化すること(血清型変換)が知られている。本研究では、大腸菌における血清型変換の全貌解明を目的として、公共データベースに登録されている大腸菌をClonal complex (CC)ごとに分類し、系統解析と血清型変換の解析を行う。 令和4年度では、公共データベースに約1000株が登録されているCC165菌株を対象とした解析を行った。全菌株が保有する遺伝子を決定後、菌株間の一塩基多型(SNP)の数を指標に、同一クローンの集団を定義し、そこから代表菌株を選定することで、解析菌株数を500菌株とした。この菌株セットの系統関係から、本系統の血清型変換の全体像が判明し、系統の祖先H抗原と祖先Sequence type (ST)も明らかになった。また、菌株間のSNP数を利用して、菌株セットを細分化することで、集団内および集団間における血清型変換の詳細な解析が可能となった。本系統にはヒトに病原性を示す志賀毒素産生性大腸菌(STEC)と豚の大腸菌症の原因となる毒素原性大腸菌(ETEC)が属し、それぞれ異なる病原遺伝子セットを有している。このことから、本系統の病原因子獲得の歴史を調べることで、大腸菌の病原性進化と血清型変換との関連が明らかになると考えられた。 また、STECのO165:H25のグローバルな集団構造を明らかにする過程で、O165:H25および近縁菌をCC119と新たに定義した。CC119に属するO172:H25がO165:H25と非常に近縁であり、両血清型の菌株間のO抗原合成遺伝子群と周辺領域の配列比較から、このO抗原の変換が、非常に複雑な組み換えの結果生じた可能性が示唆された。以上の解析結果を、病原関連遺伝子の詳細な解析結果や志賀毒素産生性の菌株間バリエーションの結果とともに原著英語論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は予め変換が起きていることが明らかであったCC29を対象としたが、今年度は変換の頻度が未知のCC165の解析を行い、CC29とは異なる血清型変換の実態を明らかにし、研究開始時点での予想通り、大腸菌系統全体で血清型変換が起きていることを示唆するデータを得た。また、O165:H25の研究から、CC119と定義した集団の解析を行うことで、非常に近縁な菌株間での血清型変換(O165とO172)の特定に至り、変換に関わる領域を詳細に解析することができた。CC29とCC165の血清型変換を見比べると、各CCによってその変換のパターンが異なることが分かったため、まずは特定のCCに焦点を絞って血清型変換の詳細を明らかにし、その過程で確立した手法を用いて他のCCを解析する手順で、大腸菌系統全体の血清型変換を明らかにできると考えられた。比較的扱いやすい菌株数であったCC165の解析を行うことで、血清型変換の解析手法の基盤を整えることもできたので、今後はCC165の血清型変換についてさらに調べる予定である。全CCに適用可能な解析について、ある程度具体的な方法を確立することができたことから、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
CC165菌株セットの各集団内について、菌株間のペアワイズのSNP数を全ての組み合わせにおいて算出する。O抗原のみ異なる・H抗原のみ異なる・OとH両方が異なる菌株間のSNP数の分布を解析し、集団内における血清型変換と菌株間の遺伝的距離との関係を明らかにする。その後、集団間で上記のデータを比較することで、血清型変換と遺伝的差異との関係性が各集団で類似しているのか、異なるのかを調べる。異なる場合は、集団特異的な血清型変換の遺伝的メカニズムが存在すると予想し、さらに詳細な解析を行う。また、血清型変換が起きている、ある程度遺伝的距離が近い菌株の組み合わせのゲノム配列を解析し、血清型変換を生じた組み換え領域の特定を行う。複数の結果を比較し、血清型変換が起きる組み換え領域の多様性の実態を明らかにする。最後に、STECとETECの病原遺伝子セットのCC165系統内での保存性を解析することで、病原性進化の過程を明らかにし、血清型変換との関連性の有無を調べる。CC29の解析ゲノムセットの構築は令和4年度に終了しているので、CC165の血清型変換の全体像が明らかになり次第、CC165の解析で用いた方法論によってCC29の解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、公共データベースに登録されたゲノム情報を取得し、無償公開されているプログラムを用いて解析する。本年度の予算は、解析サーバーのための追加パーツ(ハードディスクドライブ)に使用したが、それ以外の消耗品費は発生しなかった。また、コロナ禍により対面での研究発表機会がなかったことから、旅費も発生しなかった。このため、若干の次年度使用額が発生した。この金額は、解析用PC購入の予算に充てる予定にしている。
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Research Products
(1 results)