2021 Fiscal Year Research-status Report
ピロリ菌感染による胃発がん分子機構を標的とした創薬研究
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21K07019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 剛瑠 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (10722209)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 胃がん / ピロリ菌 / CagA / SHP2 / 化合物スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
ピロリ菌病原因子CagAはヒトがんタンパク質として知られるチロシンホスファターゼSHP2と結合し異常に活性化させることで胃発がんに関与すると考えられる。R3年度は、CagAによって活性化されたSHP2を阻害する新規創薬を目指し、化合物スクリーニングを通して既に得られているヒット化合物構造に基づいてその類縁体を取得し、阻害活性改善の有無を検討した。タンパク質レベルの試験において、既存のSHP2阻害剤として知られるSHP099(Nature, 2016)よりも高い阻害活性を示す未公表の分子構造を有した低分子化合物Xを取得することに成功した。SHP2は細胞増殖・細胞運動に深く関与するRas-MAPK経路の促進因子として働くことが知られるため、次に培養細胞を化合物処理しRas下流分子であるErk1/2の賦活化レベルの変動を抗リン酸化Erk1/2抗体を用いて検討した。その結果化合物Xは、濃度依存的にErk1/2分子のリン酸化レベルを低下させた。一方、タンパク質レベルで見られた阻害活性に比較し、培養細胞レベルで見られた阻害活性が相対的に低かったことから、化合物Xの安定性・膜透過性を検討した。結果、Xは水溶液中で不安定であり速やかに加水分解や官能基の崩壊反応を引き起こすことが明らかになった。この反応産物はSHP2阻害活性を喪失していたことから、培養細胞を用いた実験では処理中に実効濃度が低下したことに起因して期待より低い阻害活性を示したと推察される。この改善が今後の課題となる。また、SHP2との共存下では水溶液中の崩壊反応が抑制されたことから化合物Xは水から保護されるようにSHP2表面のポケットに嵌まり込むことが推察された。今後、化合物XとSHP2の複合体構造解析を通して原子レベルの結合構造決定を試み、阻害メカニズムを解明していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
阻害化合物候補の安定性の問題はあるが、少なくとも試験管内の生化学試験においてSHP099よりも高いSHP2阻害活性を示す新規化合物を取得することに成功したため、1つの研究開発目安を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
化合物の安定性の改善を試みると同時に、より高いSHP2阻害活性を示す類縁体を探索していく。また、細胞レベルにおけるRas-MAPK経路の阻害が、実際にSHP2の阻害に依存した応答であることを明らかにするため、非特異的な細胞毒性等の副反応である可能性を検証する。このため化合物による活性阻害に耐性を有するSHP2点変異体を創出し、化合物応答のSHP2依存性を検討する実験系を構築する。阻害耐性変異体の創出のため、SHP2と化合物の複合体構造を決定し、阻害メカニズムを明らかにする。
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