2021 Fiscal Year Research-status Report
Cell motility of pathogenic bacteria manipulated by a fluid flow
Project/Area Number |
21K07020
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
中根 大介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (40708997)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 肺炎 / マイコプラズマ / 走流性 / 光学顕微鏡 / 微小デバイス / 生体運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト肺炎の病原菌である Mycoplasma pneumoniae は,気管上皮細胞の表面に付着し,付着したまま滑るように動くことができる。この接着と滑走運動は,マイコプラズマの病原性発揮に必須の能力であると考えられている。これまでの研究から,この運動装置の構成タンパク質やその構造といった分子メカニズムは徐々に明らかとなっている。しかし,何のためにマイコプラズマは動いているのか,宿主細胞表面上における寄生性細菌の生存戦略という視点の研究は十分ではなく,本菌の病原性・感染過程は十分に理解できていなかった。本研究では,微小デバイスを構築し,その中で精密に制御した水流をかけると,それまでランダムであったマイコプラズマの運動方向が,流れに逆らうように方向を変化させることを光学顕微鏡下で観察することに成功した。非対称な形状をもつ菌体が水流の流れを受けてると、運動装置のある膜突起部位は固体表面に付着したままとなり、菌体の長軸が流れの方向と平行になるように配置が変化した。これは、菌体の形態が風見鶏のように流れの方向を認識するアンテナとして機能することを示唆している。このとき、菌体が発生する力は 150 pN ほどであると見積もられた。これは宿主の気管上皮繊毛が発生する力よりも大きい。もし、肺炎マイコプラズマが粘液繊毛輸送の流れに逆らって宿主表面上を動くのであれば、気管から肺の奥の方へと移動することができる。走流性という特徴的な応答機構は、マイコプラズマの運動の宿主環境下での重要な役割を検討するための新しい枠組みを提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは、ヒト肺炎マイコプラズマである Mycoplasma pneumoniae に注目し、微小チャンバー内で水流の流れに逆らって運動する様子を観察した。この走流性応答が多様なマイコプラズマで観察できることを確かめるために、Mycoplasma mobile や Mycoplasma penetrans などの菌種においても走流性応答を示すことを確認できた。これらの菌種はマイコプラズマの中では比較的離れた系統関係に位置しており、菌体の運動に関する分子メカニズムも同一の進化的起源であるとは考えにくいが、走流性という能力自体には共通して保存されていることを見出した。このような応答性が宿主環境下でも重要な役割を持つことを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
流れをかける微小チャンバーを新しい生物種にも適用することで、他のマイコプラズマや近縁種細菌等で、同様の走流性があるのかどうかを検証をする。もし、走流性応答が広く保存された能力である場合、我々がここで提案した仮説を、幅広い生物種へと広げることができる。 今回観察したチャンバーは人工的な装置の中で観察された現象である。実際の生育環境に近づけるためには、宿主の気管上皮細胞上で同様の走流性が起きるのかを検証する。培養細胞にマイコプラズマを感染させ、そこに人為的な流れを与えるか、もしくは、気管上皮細胞を模したようなピラーを配置した微小流体デバイスを作成する。これらの条件で走流性を観察することに挑戦する。 また、流れと菌体の付着との相互作用を担うタンパク質分子にも注目する。キャッチボンドと呼ばれるような負荷依存的な結合能をもつタンパク質が知られている流れをかけるチャンバーを菌体だけでなく、精製した接着タンパク質分子やそれらをリポソーム内に再構成した粒子を対象にして実験をすれば、宿主との付着に直接関与する分子の新しい生化学的活性を測定する実験系を構築できる可能性がある。
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Research Products
(9 results)