2022 Fiscal Year Research-status Report
ネズミチフス菌のエフェロサイトーシスを利用した生存戦略
Project/Area Number |
21K07027
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
日吉 大貴 長崎大学, 熱帯医学研究所, 准教授 (00585599)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | サルモネラ / T3SS / 侵襲感染 / 好中球 / エフェロサイトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで本研究題目において、我々が見出したサルモネラ(ネズミチフス菌)の新規好中球内生存戦略について解析を行ってきた。サルモネラは細胞内寄生菌の一種であり、宿主マクロファージ内にサルモネラ含有液胞(SCV)と呼ばれる特別なニッチを形成してその中で増殖ができる。しかしある段階に至ると、SCVはサルモネラの持つIII型分泌装置(T3SS-2)により孔が開けられ、マクロファージの細胞死を誘導し、結果的に補体経路も活性することで好中球をリクルートする。そしてリクルートされた好中球は「エフェロサイトーシス」によりサルモネラごと死んだマクロファージを取り込む。このマクロファージのデブリが好中球の産生する活性酸素種を中和し、サルモネラの好中球内で生存性を高めることを明らかにした。以上の成果は、これまで国際誌や学会で発表してきた。 当年度においてさらに、好中球のエフェロサイトーシスのTime-Lapseイメージングおよび、この活性のキーとなるT3SS-2エフェクターを中心に解析した。サルモネラが感染したマクロファージは、T3SS-2により細胞死が誘導されることで無傷のマクロファージと比較してサイズが小さくなり、好中球に取り込まれ易くなる。しかし、好中球が対象を取り込む形式は、ファゴサイトーシスのように包み込む(wrapping)場合や、トロゴサイトーシスのように少しずつかじる(nibbling)まで様々である。そこで我々は、Time-Lapseイメージングにより、その取り込み過程を明らかにすることを試みたが満足できる結果は得られておらず、現在問題の解決に努めている。エフェロサイトーシスの誘導にはT3SS-2が必須であるが、この装置からは30種以上のエフェクターが分泌されていることが知られている。スクリーニングの結果、その中の一つのエフェクターの強い関与を見出し、それが持つ酵素活性がその誘導に重要であることをアミノ酸置換した変異体により確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で当初に掲げた3つの学術的な「問い」のうち、既に2つはおおむね達成しており、その成果は国際誌や学会でも発表している。最後の「問い」あたるエフェロサイトーシスの誘導に関わるT3SS-2エフェクターの特定についても、T3SS-2エフェクターを網羅する33種の欠損株ライブラリーを用いて、一つのエフェクターの強い関与を見出し、現在その解析を進めている。以上のことから、これまで2年間での成果としては順調であるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在見出しているエフェロサイトーシスの誘導に関わるT3SS-2エフェクター(仮にEffector Xと呼ぶ)の解析に重点を置く。これまでの報告によると、Effector Xは既知の酵素活性を有していると共に、ネズミチフス菌のマウスにおける侵襲感染性に非常に重要であることが報告されている。しかしEffector Xの酵素活性とエフェロサイトーシス誘導活性は直結しないことから、その酵素活性を介したメカニズムの解明は、新規性の高いサルモネラの侵襲感染性発揮機構の発見につながる可能性が考えられる。また、現状の課題である好中球エフェロサイトーシスのTime-Lapseイメージングについても、好中球の感染マクロファージの取り込み様式を理解するうえで重要であると考える。したがって、利用している顕微鏡会社のテクニカルにも相談しながら問題点を克服し目的を達成することで、本研究課題をさらに推進できるよう努める。また得られた成果は、国際誌や国内外の学会で積極的に発信していく予定である。
|
Causes of Carryover |
本研究課題で、当初にTime-Lapseイメージングのために利用を計画していた共焦点顕微鏡以外に、本研究所において、P2レベルでより簡便に使用できる顕微鏡が導入される運びにになり、将来的なイメージング撮影の運用を考えた結果、そちらを優先的に使用することに決めた。しかし、その導入計画が開始から、機器の搬入およびトレーニングを経て、実際に使用できるまで半年ほど時間が掛かったことで解析試行数が思うより少なく、結果的に予定使用金額を下回った。次年度使用に関しては、当初に予定していたマウス購入、好中球分離費、プレート類および成果発表の為に用いる。
|
Research Products
(8 results)