2022 Fiscal Year Research-status Report
SARS-CoV-2増殖におけるマイクロRNAの機能解析
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21K07039
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野 慎子 大阪大学, 感染症総合教育研究拠点, 特任准教授(常勤) (30626437)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | SARS-CoV-2 / 5’UTR / siRNA / miRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロRNAは、細胞の恒常性の維持やがん化のみならず、感染症の病原性発現にも重要な役割を果たしている。一方、C型肝炎ウイルス(HCV)の研究から、マイクロRNAは宿主遺伝子の発現制御だけではなく、ウイルスゲノムRNAに直接結合することでウイルス増殖に影響を与えうることを示唆している。現在世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も同じくプラス鎖一本鎖RNAをゲノムに持つことから、その増殖におけるマイクロRNAの意義を検討することを目的とした。 SARS-CoV-2はゲノムサイズが約3万塩基と非常に大きく変異も多く挿入されているため、コロナウイルスが合成するmRNAの5’末端に含まれる約70塩基の共通のリーダー配列を含む、保存性の高い5’UTRを標的部位として注目した。昨年度までにsiRNAスクリーニングにより、SARS-CoV-2の5’UTRに存在する8つのステムループ(SL)構造のうち、SL1、SL2、SL3、SL5を標的部位とする3つのsiRNAにウイルス増殖抑制効果を確認した。またそれらのsiRNAは、武漢株から最近のオミクロン株に至るまでのさまざまなSARS-CoV-2変異体に対して、ウイルス増殖を1/10以下に抑制する効果が認められた。今年度は、それら3つのsiRNAの標的領域にシード配列を持つマイクロRNAのSARS-CoV-2増殖への影響、LNAで構成された一本鎖アンチセンス核酸を用いた阻害効果の有無、siRNAに対する耐性変異体の出現とその性状解析、そしてSARS-CoVに対するsiRNAの増殖阻害効果について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①マイクロRNAのSARS-CoV-2増殖への影響:増殖阻害効果を示した3つのsiRNAの標的領域にシード配列を持つマイクロRNAを選抜したところ9個の候補マイクロRNAが得られたが、ウイルス増殖抑制効果は認められなかった。 ②LNAで構成された一本鎖アンチセンス核酸を用いた阻害効果:siRNAが標的とする高次構造の重要性に着目し、RNAよりも強い結合親和性を持つLNAを用いた一本鎖アンチセンス核酸を用いて、構造形成阻害によるウイルス複製・増殖阻害が生じるかを検討したが、阻害効果は認められなかった。以上より、siRNAによる阻害効果は21塩基の完全一致によるRNA切断が主な作用機序であることが明らかとなった。 ③siRNAに対する耐性変異体の出現とその性状解析:siRNA存在化で培養細胞を用いてウイルスを継代したところ、一度低下した感染力価が徐々に回復した。継代ウイルスの配列解析を行ったところ、いずれもその標的部位に1塩基置換が生じていた。そこで、CPER法により逆遺伝学的にそれぞれの耐性変異株を作製したところ、いずれもウイルス産生効率が低下していた。さらに、公開されているデータベースより5’UTR領域の配列解析をすると、今回得られた変異がわずかに検出された一方で維持されておらず、ウイルス増殖において優位な変異ではないことが示唆された。 ④SARS-CoVに対するsiRNAの増殖阻害効果:本研究で得られた3つのsiRNAの標的部位は、SARS-CoV-2のみならずSARS-CoVを含めたサルベコウイルス属でも保存されている。そこで、siRNAのSARS-CoVに対する抑制効果を調べたところ、SARS-CoV-2と同様にウイルス増殖を1/10以下に抑制した。よって、今後出現しうる、サルベコウイルス属から派生した新興・再興ウイルスに対しても利用可能であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに当研究室で樹立し、SARS-CoV-2感染による重症化を引き起こすことのできる野生型Balb/cマウスとマウス馴化SARS-CoV-2を用いたマウス感染モデルを用いて、3つのsiRNAによるin vivoでの治療効果を見る。 また最終年度のため、本研究で得られた成果をまとめて学術論文にて発表する。
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