2021 Fiscal Year Research-status Report
CRISPRスクリーニングによるTCR刺激依存的Tregエピゲノム制御因子の同定
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21K07077
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 啓 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80771196)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 制御性T細胞 / TSDR / DNA脱メチル化 / CRISPRスクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子Foxp3を発現した制御性T細胞(Treg)は広範な免疫抑制機能を示し、自己免疫寛容と免疫恒常性の維持に必須の役割を担っている。これまでにTregへの運命決定はFoxp3発現の有無ではなく、Foxp3遺伝子座のTreg-specific demethylation region[TSDR]と呼ばれる発現制御領域のDNA脱メチル化により補完されることが分かってきた。しかしながら、現時点でこのエピゲノム形成の分子基盤はほとんど明らかにされていない。そのため、例えばin vitroでナイーブT細胞からT細胞受容体(TCR)刺激とサイトカインTGF-βを与えることで誘導されるiTreg(in vitro-induced Treg)の培養系では、安定的なFoxp3発現を獲得した細胞を誘導することが出来ず、Tregを用いた細胞療法にとって大きな障害となっている。 本研究はTCR刺激の強さや長さがiTregのTSDR脱メチル化制御に寄与しているというこれまでの知見をもとに、Tregエピゲノム形成に重要なTCR刺激依存的な分子をCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーによる網羅的なスクリーニングで同定することを目指す。そして、同定した標的因子を介して安定的にFoxp3発現を獲得したiTregを誘導し、治療応用への可能性を探索する。 2021年度は、CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーによるスクリーニングを可能にするiTreg培養系の確立を目指した。具体的には、TSDR脱メチル化が進行する前に、sgRNAをレトロウイルス(RV)感染で導入し、標的遺伝子をノックアウトし、その後にTCR刺激依存的なTSDR脱メチル化が誘導されるiTreg培養系の確立を目指した。その結果、上記培養系を確立することに成功し、本培養系を用いてCRISPRスクリーニングが可能になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを用いたスクリーニングを実施可能にするためのiTreg培養系の構築を試みた。TSDR脱メチル化制御因子を探索・同定するためには、TSDR脱メチル化が進行する以前にsgRNAライブラリーを培養細胞に導入する必要がある。そのため、まずTSDR脱メチル化が誘導されていない条件下でナイーブT細胞を前培養しRV感染によりsgRNAを導入した。sgRNA導入後、iTreg培養系でFoxp3発現とTSDR脱メチル化を誘導した。まず上記の前培養有りの系で、TCR刺激依存的なTSDR脱メチル化が見られるのかを調べた。その結果、gRNA導入の前培養有りの系においても、誘導されたFoxp3陽性細胞のTSDR脱メチル化は、TCR刺激の強さ依存的に制御されていることを確認できた。次にこれまでのiTreg培養実験で、TCR刺激下流のシグナルの1つであるmTORC1をラパマイシン添加で阻害すると、TSDR脱メチル化が低下する知見が得られていたため、前培養有りの系においても、ラパマイシン依存的なTSDR脱メチル化の変化が見られるのか検証した。その結果、前培養有りの系においても、ラパマイシン依存的にTSDR脱メチル化が制御されていることが分かった。すなわち、ナイーブT細胞にsgRNAを導入し、その後でTGF-βとTCR刺激でiTregを誘導させる系においても、TCR刺激依存的、且つラパマイシン依存的にTSDR脱メチル化が制御されていることを確認でき、本培養系を利用してCRISPRスクリーニングが可能になると考えられる。以上の進捗状況から、本研究は概ね当初の計画通り、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
TSDR脱メチル化制御因子を直接的にスクリーニングするためには、TSDRがメチル化状態の細胞と脱メチル化状態の細胞を分離する必要がある。これまでに、通常のiTreg培養系で誘導したFoxp3陽性細胞を単離し、抗原提示細胞で再刺激してFoxp3陽性細胞と陰性細胞に分けると、TSDRが脱メチル化状態の細胞とメチル化状態の細胞に分離できることに成功している。そこで今年度は、sgRNA導入の前培養の系でも上記の分離が可能かどうか(TSDR脱メチル化状態をFoxp3発現でレポートできるかどうか)検証する。次にTSDR脱メチル化に必須と考えられるDNA脱メチル化誘導酵素TET(Ten-eleven translocation)に対するgRNAを作成し、TET gRNAを前培養有りの系で導入し、TSDR脱メチル化がTET依存で見られるのかを確認する。それが確認できたら、次にTET gRNAを導入したFoxp3陽性細胞を抗原提示細胞で再刺激して、ほとんどの細胞がFoxp3陰性細胞になることを確認する(すなわちTSDR脱メチル化に必須な因子をターゲットしたgRNAは、再刺激の系でFoxp3陰性細胞に選択的にenrichされることを確認する)。上記事項が確認できたら、CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーによる全ゲノムスクリーニングの準備に取り掛かる。
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