2021 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエを用いた臓器連関を介した腫瘍悪性化の遺伝学的解析
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21K07120
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 喜一郎 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (20554174)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん遺伝子Ras / 化学受容器 / 臓器連関 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者は、ショウジョウバエRasモデルを用いて、化学受容器をコードするIr40a遺伝子のヘテロ変異がRasV12良性腫瘍の悪性化を引き起こすことを明らかにしている。令和3年度の研究計画では、どの臓器におけるIr40a欠損がRasV12腫瘍の悪性化に寄与しているかについて解析を行った。
eyFLP-QMARCMシステムを用いて、QUAS/QFバイナリ発現誘導システムによるRasV12強制発現クローンを誘導することで、複眼上皮特異的にRasV12良性腫瘍を誘導できる。この時、さらにGal4/UASバイナリ発現誘導システムを用いて、組織特異的にIr40aノックダウンを誘導した。複眼上皮特異的ドライバー (ey-Gal4)、ニューロン特異的ドライバー (elav-Gal4)、消化管特異的Gal4ドライバー (Myo31DF-Gal4)、脂肪体・血球特異的Gal4ドライバー (Cg-Gal4)を用いてIr40aノックダウンを行った。その結果、ニューロン特異的なIr40aノックダウンにより、RasV12良性腫瘍が過剰増殖を引き起こすことが分かった。一方で、同様に神経細胞系であるグリア細胞特異的ドライバー (Repo-Gal4) によるIr40aノックダウンは、過剰増殖を引き起こさなかった。この結果は、神経細胞系のニューロンにおけるIr40欠損が臓器連関を介してRasV12腫瘍の悪性化を引き起こすことを示唆している。
一方で、本計画におけるIr40aノックダウンによるRasV12腫瘍悪性化の表現型は、Ir40aヘテロ変異と比べて非常に弱く、結果の確証を得るためには別のアプローチが必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本計画で用いたelav-Gal4は、非常に強いニューロン特異的ドライバーとして認識されているにもかかわらず、RNAiによる表現型解析 (過剰増殖表現型) は弱かった。そのため、責任ニューロン種の同定を本実験システムで行うことは、表現型解析として適切ではないと考えられた。
そこで、Ir40aに対するgRNAを恒常的に発現する組み換え体において、Gal4依存的にCas9遺伝子を発現させることで、組織特異的なCRISPR-Cas9ノックアウトを行うための実験系を確立した。この系を用いて令和4年度の結果を再検証し、責任ニューロンの同定を再度計画・遂行している。
令和3年度では、RNAi系を用いて責任ニューロンまでの同定を行うことを目指していたことを考慮し、現在までの進捗状況は“(3) やや遅れている”と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度に行う予定であった「組織特異的なIr40a RNAi法」による腫瘍悪性化の責任組織同定を「組織特異的なIr40a Cas9ノックアウト法」と再計画し、RasV12悪性化における臓器連関を担う責任ニューロンの同定を目指す。さらに、同定ニューロンにおいて、Ir40aが神経シグナルを介して作用しているかについても検証する。化学受容器Ir40aの下流経路については不明点が多いが、cAMP-PKA経路を介した神経活性化が起きていると予想されている。そこで、同定ニューロン特異的にIr40aノックアウトによりRasV12腫瘍の過剰増殖が、dunce遺伝子 (cAMP phosphodiesterase) ノックダウンによるcAMPレベルの増幅により抑圧されるか検証する。また、同定ニューロンにおいてrut (cAMP synthetase) をノックダウンすることで、Ir40a欠損で見られたRasV12腫瘍悪性化と同様の表現型が見られるかについても検証する。
次に、同定ニューロンを介した臓器連関を担うシグナル経路を同定するべく、Ir40a欠損がRasV12腫瘍における栄養代謝シグナルにどのような影響を与えているか検証する。具体的には、アミノ酸シグナル (pS6K染色) 、インスリンシグナル (tGPHレポーター)、解答系シグナル (HexAレポーター)、嫌気的解糖系シグナル (LDHレポーター) の活性レベルをレポーター遺伝子を用いて調べる。さらに、Ir40a欠損によりシグナルレベルの上昇がみられたものについては、同定されたシグナル経路構成する因子についてRasV12腫瘍特異的なノックダウンを行い、過剰増殖表現型が抑圧されるか検証する。
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Causes of Carryover |
令和3年度に計画していた、組織特異的RNAi法による実験系を遂行したところ、表現型解析を可能なレベルでの強い表現型を得ることができなかった。そのため、より厳密な解析のために新たに組織特異的Cas9ノックアウトによる実験系を確立し、令和3年度の実験計画の一部を令和4年度において再検証する必要があると判断した。この計画変更に伴い、ショウジョウバエ系統の作成・維持、細胞生物学実験等に関わる支出について、次年度使用とすることにした。
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