2021 Fiscal Year Research-status Report
骨肉腫の腫瘍免疫誘導制御に関わる分子機構解明と新規がん免疫療法の開発
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21K07134
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
清水 孝恒 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (40407101)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 骨肉腫 / 腫瘍免疫 / 転移巣 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちは、これまでに、マウス骨髄ストローマ細胞から骨肉腫がん幹細胞モデル(AXT細胞)を樹立した。この細胞は免疫系が正常なマウスへ移植すると、2-3週の短期で類骨形成を伴う原発・転移巣を形成し、ヒト骨肉腫の病理・病態像を極めて模倣したマウスモデルである。AXT細胞を免疫系が正常なC57BL/6とB, T細胞系の機能が欠損したC57BL/6 SCIDマウスの両者に移植し、腫瘍形成能を比較したところ、C57BL/6移植群の骨肉腫形成はSCIDマウスに比較して緩徐であった。即ち、骨肉腫形成における腫瘍免疫の関与が示唆された。関与する分子を解明するため2269遺伝子を含むsgRNAのlibraryを用いて、CRISPR-Cas9を用いたdropout screeningを施行したところ、C57BL/6に形成された腫瘍において、SCIDマウスに比較して62種のdropoutした遺伝子が抽出された。即ち、これらの分子は、骨肉腫に高く発現することにより、腫瘍免疫から逃れ、腫瘍形成に有利に働く可能性がある。このうち、7種類の遺伝子に関しshRNAによるノックダウンを行い、C57BL/6とC57BL/6 SCIDマウスに移植し、腫瘍形成能の比較を行った。その結果、DNA障害に対する反応経路にかかわる分子やアクチン骨格に関わる分子は、ノックダウンによりC57BL/6マウスにおける腫瘍形成能が遅れた。さらに、DNA障害への反応経路に関連して、AXT細胞はmutant p53を発現しており、CRISPR-Cas9によるノックアウト細胞を作成し、腫瘍免疫における効果を検証中である。また、mutant p53は病的機能を獲得し、浸潤能、転移能を上昇させると報告されている。in vivoにおける腫瘍形成能の変化が、腫瘍免疫機構に由来するものか、細胞自体の形質変化によるものか検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
dropout screeningから抽出された骨肉腫腫瘍免疫に関連が示唆される候補遺伝子に関して、AXT細胞に遺伝子発現修飾を行い、マウスへ移植後、原発巣、転移巣を評価する系における技術的側面は確立され、安定的に解析が可能となった。そして、C57BL/6とC57BL/6 SCIDマウスに移植し、腫瘍形成能の比較を行うことにより、腫瘍形成過程における免疫系の関与を示唆する知見が得られた。しかしながら、遺伝子修飾を行うことによりもたらされた腫瘍形成能の変化は小さく、より強力に関与する分子を見出す必要がある。また、AXT細胞は移植後早期で腫瘍が小さいうちはT細胞が多く浸潤しており、進行し腫瘍が増大するにつれて消失してゆくことが確認された。腫瘍免疫が腫瘍形成の初期には働くが、その後減弱してゆく過程が想定された。そのため、評価を行うタイミングを検討することも重要である。また、2つ以上の候補遺伝子を組み合わせた解析も今後必要になる可能性もある。結果の進捗状況を踏まえて、今後の解析パターンを変えてゆく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
・候補遺伝子の骨肉腫形成における影響評価:前年度に引き続き、骨肉腫細胞(AXT)に候補遺伝子の発現修飾を行い、野生型C57BL/6とSCIDマウスへ移植後、腫瘍形成能を比較する。野生型マウスで腫瘍形成能が変化するものをヒット遺伝子として同定する。これまでの解析の条件では、変化の差が小さいことも予想され、評価を行うタイミングを検討する。また、2つ以上の候補遺伝子を組み合わせた解析も予定している。腫瘍免疫への関与が示唆される遺伝子の同定に続き、以下の実験を進める。 ・腫瘍免疫制御に関わる分子機序の解明:2-1.腫瘍サンプルの解析:組織から切片を作成し、免疫組織染色法により組織学的違いを見出す。未修飾細胞 vs修飾細胞移植群、WT vs SCID移植群を比較し、特に、腫瘍内の免疫細胞の種類・数、腫瘍血管構築、細胞死の差異に注目する。定量的解析は腫瘍から細胞浮遊液を作成し、flow cytometryで解析する。2-2.in vitroの解析:1.細胞内因性因子の評価:細胞増殖、細胞死、細胞周期を解析し、遺伝子発現修飾による影響を調べる。これらへの影響がみられず、in vivoのみで腫瘍抑制効果がみられる場合は、環境因子による機序の可能性が高い。また、親株との間で網羅的遺伝子発現比較を行い、責任分子、シグナル伝達経路同定の一助とする。2.責任シグナル経路の同定、分子機構の解明:ヒット分子の上流、下流で働く分子が示唆された場合、ノックダウン、過剰発現により、in vivo形質変化への役割を解明する。マウスへ投与可能な阻害薬が存在する場合は、抗腫瘍効果を検討する。
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Causes of Carryover |
発注した試薬(がん浸潤評価のためのキット)がコロナ禍のため生産が遅れて、年度をまたいで継続発注となっているため。また、研究の期間がコロナ感染対策関連の業務のため一部短縮せざる負えなくなり、試薬の消耗が減ったため。
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