2022 Fiscal Year Research-status Report
がん悪液質におけるカルニチン代謝を制御する分泌因子の分子機構解明
Project/Area Number |
21K07138
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡田 守弘 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (90638991)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | がん悪液質 / ショウジョウバエ / ネトリン / カルニチン |
Outline of Annual Research Achievements |
がん悪液質は、複雑な生理的異常が絡み合う全身性の代謝障害であり、予後に悪影響を及ぼす。しかし、がん悪液質を完治し、生存率を大幅に改善した報告はない。そのため、個体レベルでどのように宿主ががんに代謝応答しているかについて、生物学的な理解は乏しい。
がん悪液質の全容の解明のために、本研究では個体レベルでのがん悪液質研究に適したショウジョウバエ担がんモデルを用いている。これまでに、担がん個体では、がん細胞から離れた脂肪体 組織(ヒトの脂肪・肝臓に相当する器官)のカルニチン代謝に異常があることを明らかにしている。そして、カルニチン代謝異常は担がん個体の生存率に関与していた。しかし、なぜ、局所的にがんを誘導することで、遠隔組織である脂肪体組織のカルニチン代謝のリモデリングが生じるのか、そのメカニズムは不明である。
2022年度は、脂肪体のカルニチン代謝を制御するメカニズムの解明において明確な進展が得られた。まず、がん細胞から分泌される新規がん悪液質液性因子ネトリンを同定した。次に、ネトリンががん細胞から分泌され、ネトリン受容体を介して遠隔の脂肪体組織に作用していることを明らかにした。さらに、ネトリン受容体が脂肪体組織のカルニチン代謝遺伝子を抑制し、その結果カルニチン代謝がリモデリングしているメカニズムを明らかにした。この研究結果により、これまで知られていないがん悪液質のメカニズムの一端が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、がん細胞から分泌される液性因子に着目し、脂肪体組織におけるカルニチン代謝が制御されるメカニズムを解明し、個体レベルでのがん悪液質本態の分子機構の全容の理解を目指すものである。
これまでに、正常個体群と担がん個体群の上皮組織を用いたRNA-seq解析と網羅的なRNAiスクリーニングによって、がん悪液質に関与する液性因子の同定を試みた。そして、がん細胞から分泌される新規がん悪液質液性因子ネトリンを同定した。がん細胞のネトリンを阻害すると、がん細胞自体には影響を与えないが、担がん個体の生存率が顕著に上昇することを明らかにした。次に、ネトリンががん細胞から分泌され、ネトリン受容体を介して遠隔の脂肪体組織に作用していることを明らかにした。そして、ネトリン受容体が脂肪体組織のカルニチン代謝遺伝子を抑制し、その結果カルニチン代謝がリモデリングしているメカニズムを明らかにした。この研究結果により、これまで知られていないがん悪液質のメカニズムの一端が明らかになった。
以上の経過から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、カルニチン量の低下が担がん個体の生存率に悪影響を及ぼすことを見いだしている。しかし、ネトリンシグナルがカルニチン代謝を制御する分子機構の詳細は明らかではない。そこで、遺伝学的手法と分子生物学的手法を用いて、脂肪体組織におけるカルニチン代謝リモデリングを制御する分子機構の全容の解明を行う。
また、異なるショウジョウバエ担がんモデルにおいても、ネトリンの機能を検証し、研究成果の一般性を検証する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた、物品の購入費が少なく済んだため。翌年度にさらに必要となる解析費用と論文の出版費用として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)