2021 Fiscal Year Research-status Report
Invasiveness of cancer cells regulated by compressive stress
Project/Area Number |
21K07141
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石原 誠一郎 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (10719933)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん / 浸潤 / 圧縮ストレス / メカノバイオロジー / MMP1 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞の浸潤はがん患者の予後不良に強く相関する.がん細胞は生体内で圧縮ストレスを受けるが,圧縮ストレスが浸潤能に与える影響は不明である.先行研究から圧縮ストレスは浸潤を誘導する遺伝子の発現を上昇させることが示唆されている.しかし細胞に圧縮ストレスを与える既存の方法では,浸潤できない物質中にがん細胞を埋め込むため,圧縮ストレスを与えながら浸潤を解析することができなかった.そのため圧縮ストレスによりがん細胞の浸潤能が上昇することを示す直接的な証拠はこれまで得られていなかった.そこで本研究ではがん細胞に圧縮ストレスを加えると同時に浸潤能を測定することができる独自の培養法を用いて,圧縮ストレスががん細胞の浸潤能を上昇させるか否かを検証するとともに,その分子機構を解析する.今年度は下記の検証を進めた.
1.圧縮ストレスを受けたがん細胞の表現型の解析を目指した.ヒト膵がん細胞株であるAsPC1細胞では,圧縮後に浸潤能が上昇する様子は観察されなかった一方で,圧縮条件下では細胞増殖が抑制されることが明らかとなった.これは圧縮ストレスにより膵がん細胞は増殖能を低下させることで薬剤耐性をもつ可能性を示唆している.
2.圧縮ストレスにより発現または活性が誘導される分子の同定を目指した.これまでに圧縮ストレスがAsPC1細胞にてmatrix metalloproteinase 1(MMP1)の発現を上昇させることを発見した.そこで圧縮ストレスがMMP1発現を上昇させる分子機構について調べたところ,圧縮ストレスによりアクアポリンを介して細胞内から水分子が細胞外に排出されることで細胞内におけるpHの低下が起こり,それによって細胞内の亜鉛濃度が上昇することでMMP1の発現が亢進することが明らかとなった.またcAMP応答配列(CRE)を介した転写制御の検証も行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.圧縮ストレスを受けたがん細胞の表現型の解析を目指した.ヒト膵がん細胞株であるAsPC1細胞では,圧縮後に周囲に浸潤する様子は観察されなかった一方で,圧縮条件下では細胞増殖が抑制されることが明らかとなった.これは圧縮ストレスにより膵がん細胞は増殖能を低下させることで薬剤耐性をもつ可能性を示唆している.
2.圧縮ストレスにより発現または活性が誘導される分子の同定を目指した.これまでに圧縮ストレスがAsPC1細胞にてMMP1の発現を上昇させることを発見した.これは圧縮ストレスにより細胞内の亜鉛濃度が上昇し,シグナル分子であるErkが活性化することにより生じていた.そこで圧縮ストレスがMMP1発現を上昇させる分子機構についてさらに調べたところ,圧縮ストレスによりアクアポリンを介して細胞内から水分子が細胞外に排出されることで細胞内におけるpHの低下が起こり,それによって細胞内の亜鉛濃度が上昇することを見出した.現在これらの研究成果をまとめて論文のRevise中である.
さらにCREを介した経路の検証を行った.膵がん細胞株(AsPC1細胞)においてプロモーター領域にCREをもち,かつ膵がん患者の予後不良に相関する10の遺伝子を同定した.次に,圧縮ストレスによってこれらの遺伝子発現が上昇するメカニズムの同定を目指した.CREには主にAP-1ファミリーの転写因子が結合し転写を制御することが知られているため,RNAiでそれらの転写因子をノックダウンし上記10遺伝子の発現が減少するかどうかを定量PCRで確認した.これまでに約10種類のAP-1ファミリーの転写因子についてノックダウンを行いqPCRで遺伝子発現を確認したが,上記10遺伝子について発現は変化しなかった.そのため他の転写因子について現在検証を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
1.圧縮ストレスを受けたがん細胞の表現型をより詳細に解析する.圧縮前後のがん細胞株を位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡で観察し形態の変化を解析する.さらに,圧縮条件下と非圧縮条件下で細胞の増殖を解析する.これまでに,ヒト膵がん細胞株であるAsPC1細胞では,圧縮後に周囲に浸潤する様子は観察されなかった一方で,圧縮条件下では細胞増殖が抑制されることが明らかとなった.これは圧縮ストレスにより膵がん細胞は増殖能を低下させることで薬剤耐性をもつ可能性を示唆している.AsPC1細胞は浸潤能が低い細胞であると考えられるため,現在は他のがん細胞株(ヒト肉腫細胞株であるHT1080細胞やヒト肝がん細胞株であるHepG2細胞等)を用いて圧縮ストレスが浸潤能等の表現型に影響を与えるかどうかを検証している.さらに圧縮ストレスが薬剤耐性に寄与するかどうかを調べるため,AsPC1細胞に圧縮ストレスを与えた条件下で薬剤(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル、5-FU等)を投与し,細胞の生存率が変化するかどうかについて検証する.
2.圧縮ストレスにより発現または活性が誘導される分子の同定を目指す.これまでに膵がん細胞株(AsPC1細胞)においてプロモーター領域にCREをもち,かつ膵がん患者の予後不良に相関する10の遺伝子を同定した.CREには主にAP-1ファミリーの転写因子が結合し転写を制御することが知られているため,RNAiでそれらの転写因子をノックダウンし上記10遺伝子の発現が減少するかどうかを定量PCRで確認した.約10種類のAP-1ファミリーの転写因子についてノックダウンを行いqPCRで遺伝子発現を確認したが,上記10遺伝子について発現は変化しなかった.そこで今後はマイクロアレイやRNA-seqの結果からGSEAなどを行って圧縮ストレスが引き起こす転写制御メカニズムを調べる予定である.
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響で令和3年度に予定していた学会発表での渡航ができなかった。令和4年度状況が改善した際に学会発表における旅費として計上するために次年度使用額とした。また実験の条件検討やデータ取得が予想以上に順調に進んだため、予定していたよりも少ない使用額で研究を進めることができた。次年度使用額は令和4年度に本研究をさらに推進させるために、細胞実験で用いる消耗品をはじめ研究に必要な予算に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)