2021 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of cell-cell adhesion structures and signaling pathways causing collective invasion in cancer cells
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21K07142
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
芳賀 永 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (00292045)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 純子 (仁尾純子) 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70447043)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / がん細胞 / 集団浸潤 / 細胞間接着構造 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くのがん細胞種は細胞間の接着を維持したまま集団で浸潤する.このことを集団浸潤という.その機序については不明な点が多い.本研究は,がん細胞にみられる細胞間接着構造と細胞間に形成される仮足構造を観察・解析するとともに,それらの構成分子およびシグナル経路を明らかにすることで集団浸潤の普遍的機序に迫る.研究目的で掲げた3つの問いである①集団浸潤をもたらすシグナル経路の探索,②細胞間に特異的に見られる仮足構造の解析,③集団浸潤の普遍性の検証のうち,令和3年度では,①集団浸潤をもたらすシグナル経路の探索を行った. ヒト皮膚扁平上皮がん細胞株(A431細胞)から高浸潤と低浸潤のサブクローン株を樹立し,DNAマイクロアレイによってサブクローン間の発現遺伝子を比較したところ,これまでにkeratin-1,10,14,JAK-STAT経路などの遺伝子発現に有意な差があることが明らかとなっていた.そこで,転写因子であるSTAT1に着目し,RNA干渉法によってSTAT1の発現を抑制したところ,高浸潤サブクローン株の集団浸潤が有意に抑制されるという結果を得た.さらに,STAT1を活性化させるサイトカインであるインターフェロンβ(INFB)の発現と局在を免疫蛍光染色法によって観察したところ,高浸潤サブクローン株では細胞-細胞間にINFBが局在する一方,低浸潤サブクローン株では細胞-細胞間での局在は観察されなかった.加えて,高浸潤サブクローン株でINFBの発現をノックダウンしたところ,STAT1は活性化せず,集団浸潤も抑制されることが明らかとなった.さらに,EGTAを用いて細胞-細胞間接着を緩めたところ,高浸潤サブクローン株におけるINFBの細胞-細胞間局在が消失し,集団浸潤が抑制された.これらの結果は,IFNBが細胞間隙に蓄積しSTAT1が活性化することで集団浸潤が誘引されることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和3年度では,研究実施計画をほぼ順調に遂行することができた.集団浸潤をもたらすシグナル経路としてINFB- STAT1を同定し,さらに,研究分担者である小林の指導のもと透過型電子顕微鏡を用いた解析を行うことで,細胞間隙の構造がIFNBの蓄積とSTAT1の活性化にとって重要であることを明らかにした.加えて,榎本篤教授(名古屋大学・医学部)の協力によってヒト臨床検体の解析を行った結果,臨床検体においてもSTAT1の活性化が集団浸潤の亢進に関与することが示唆された.これらの結果は,日本癌学会,日本分子生物学会,患者由来がんモデル研究会で発表するに至った.さらに,原著論文としてまとめ,Oncogenesis誌からアクセプトを得ることができた. DNAマイクロアレイ解析によって,サブクローン間においてkeratin-1,10,14の発現に有意な差があることが明らかとなっていた.これらはいずれも低浸潤サブクローン株で高発現しており,RNA干渉法によってそれらの発現を抑制したところ,細胞間隙が狭くなり,STAT1が活性化するという結果を得た.つまり,keratin-1,10,14は細胞間隙を広げる働きに関与し,結果としてIFNBの蓄積を妨げることでSTAT1の活性を抑制すると考えることができる.しかし,その機序については不明であり,今後詳細な解析が必要である. 同じく,DNAマイクロアレイ解析によって,サブクローン間において長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の発現に有意な差があることが明らかとなっていた.このlncRNAは低浸潤サブクローン株で高発現しており,浸潤能を抑制する可能性がある.そこで,RNA干渉法によって当該lncRNAの発現をノックダウンする実験を試みたが,いまのところ発現抑制に難渋しており,今後実験条件等の検討が必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度では,研究目的で掲げた3つの問いのうち,①集団浸潤をもたらすシグナル経路の探索を継続する.とくに,STAT1の活性化によって集団浸潤能が上昇する機序を明らかにする.がん細胞が集団で浸潤する際,細胞間のコミュニケーションが必須となるため,STAT1の下流シグナルの中から細胞同士の運動を連携させる因子の探索を行う.さらに,keratin-1,10,14に着目し,細胞間隙構造の維持とSTAT1の活性化との関係を調べる.加えて,令和3年度で試みたlncRNAのノックダウン実験も継続し,集団浸潤への関与について調べる. 次に,研究目的のうち,②細胞間に特異的に見られる仮足構造の解析を進める.我々はがん細胞集団の表面を走査型電子顕微鏡を用いて観察し,糸状,こん棒状,ヒダ状など形態の異なる様々な仮足構造が存在することを明らかにした.このような仮足構造はこれまで遊走能の高いマクロファージでは観察されていたが,がん細胞集団の表面で観察されたのは初めてであり,これらの仮足構造ががん細胞に集団で浸潤するための自由度と推進力を与えているのではと考えている.そこで,マイクロアレイ解析の結果から仮足を形成するために必要とされているタンパク質群を抽出し,RNA干渉法によるノックダウン下での位相差顕微鏡タイムラプス観察および電子顕微鏡観察を行うことで,がん細胞集団に特異的に見られる仮足構造の変化と集団浸潤への影響を調べる. さらに,①と②の結果がまとまり次第,3つ目の研究目的である③集団浸潤の普遍性の検証についても着手する.具体的には,浸潤能が高い各種細胞株(MDA-MB-231細胞,H1299細胞,MIAPaCa-2細胞など)をコラーゲンゲル中に3次元包埋培養し,集団浸潤に関与するシグナル経路,細胞間隙構造と仮足に着目して,集団浸潤への普遍性を調べる.
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Causes of Carryover |
当初の実施計画で想定していた試薬などの経費を予想価格より抑えることが出来た.次年度使用額は,これまでの成果をさらに発展させ,研究を加速するために,技術補佐員を雇用し,その人件費に充てる.さらに,これまでに得られた研究成果を公表するための論文掲載料,学会発表に掛かる経費等に使用する.
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Research Products
(4 results)