2023 Fiscal Year Research-status Report
霊長類辺縁皮質-ストリオソーム経路の多細胞活動記録法による機能解析
Project/Area Number |
21K07259
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
雨森 智子 京都大学, 高等研究院, 特別研究員(RPD) (20896980)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 神経生理学 / マカクザル / 大脳基底核 / 線条体 / 多点同時記録法 / 微小電気刺激法 |
Outline of Annual Research Achievements |
霊長類において不安障害やうつに因果的に関わるとされる神経回路は、大脳皮質ー大脳辺縁系にわたり広く分散して存在すると考えられてきた。近年、我々の研究から、これらの回路の下流域に線条体ストリオソーム構造が存在することが明らかになってきた。これまでの一連の研究に基づき、我々は、葛藤状況下で引き起こされる不安は、前頭前皮質(Front)-帯状回皮質(Cingulo)-線条体(Striatum)にわたる神経ネットワーク(FCSネットワーク)の相互作用、情報伝達の異常によって引き起こされるという仮説をたてた。この仮説を検証するため、まず、葛藤課題中のサルの腹内側前頭前皮質を微小電気刺激し、悲観的な意思決定を誘発した。悲観的な意思決定時のFCSネットワークの神経活動と局所電場電位(LFP)を同時に記録した。解析の結果、FCSネットワークのLFPのベータ域での応答は、サルの意思決定を反映することが明らかになった。また、悲観的な意思決定時のFCSネットワークの情報の流れを、グレンジャー因果解析を用い調べた。その結果、背外側前頭前皮質から前帯状回皮質と線条体への情報伝達が通常より低下していたことを発見した。このことから、背外側前頭前皮質から前帯状回皮質・線条体へのトップダウン制御が、悲観的な意思決定に関係することがわかった。この結果は霊長類ではじめて、葛藤状況下での悲観的意思決定時の脳ネットワークの変化を示したもので、不安やうつなどの精神疾患の治療にもつながる可能性がある。本年度はこの研究結果を北米神経科学会やASHBiリトリートでポスター発表を行った。さらに、ASHBiコロキウムで口頭発表を行った。また研究結果を論文にまとめ、Nature Communications誌に投稿し受理された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまでデータ解析を行っていた悲観的な意思決定時の辺縁皮質-線条体にわたる神経ネットワークの情報表現やその相互作用に関する結果を論文にまとめ、国際・国内会議での口頭・ポスター発表を精力的に行った(北米神経科学会とASHBiリトリートでポスター発表、ASHBiコロキウムで口頭発表)。さらにその研究論文がNature communications誌(インパクトファクター16.6)に受理された。また、2頭のマカクザルへの行動課題である葛藤意思決定課題の訓練を完了した。現在、辺縁皮質-ストリオソームを含むネットワークからの慢性多点同時記録の準備をしている。以上のことから、研究の進行・出版ともに順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
多点同時記録法で得られた局所電場電位のグレンジャー解析に関す論文が受理され出版予定なので、研究結果の国際会議での発表をさらに広く行う予定である。また、前帯状回皮質や後部眼窩前頭皮質、島皮質前部がストリオソーム構造に投射していると考えられるので、これらの局所回路と線条体の相互作用を多点同時記録法やカルシウムイメージング手法、化学遺伝学を使い精緻に調べる。
|
Causes of Carryover |
本年度中に出版予定だった論文の出版が来年度初頭となったので、次年度の出版料に使用を計画している。また、国際学会での研究成果の発表や、多点同時記録実験に使用する電極、チャンバー、グリッドやその他物品購入にも使用する。
|