2021 Fiscal Year Research-status Report
臓器感覚入力系におけるモノアミン神経細胞の情動表現解析
Project/Area Number |
21K07266
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
安田 正治 関西医科大学, 医学部, 講師 (90744110)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川合 謙介 自治医科大学, 医学部, 教授 (70260924)
永安 一樹 京都大学, 薬学研究科, 助教 (00717902)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | サル / 外側腕傍核 / 情動 / 認知 / 内受容感覚 / 迷走神経 / 自律神経 / 眼球運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、内臓感覚をはじめとする身体内部の感覚入力が、どのような神経機構により情動や認知行動に影響を与えるのかを明らかにすることにある。 まず種々の情動下で認知行動課題を行う動物モデルを作成するため、サルに報酬(正の情動)、もしくは嫌悪刺激(負の情動)と関連付けられた二種の視覚性条件刺激を学習させた。次に行動中のサルの情動を調節するため、選択課題をサルに行わせ、課題中に学習した条件刺激のどちらかを提示した。その結果、サルは、嫌悪刺激と関連付けられた条件刺激を提示した条件(負の情動条件)において、より多くの行動エラーを引き起こし、また交感神経優位な自律神経応答(より大きな瞳孔径、低周波数優位な脈拍変動)を示した。このことは、負の情動条件においてサルがストレス下にあり、選択行動中のサルの情動に継続的な制御を加えたことを示唆している。 迷走神経は身体・内臓の感覚情報を脳に伝達する主要な神経繊維である。そこで迷走神経からの入力を間接的に受け取る脳領域が情動や認知に関してどのような神経表現を行うのかを明らかにするため、脳幹におけるマッピング記録を行い、上記の課題関連活動を記録した。その結果、報酬もしくは嫌悪刺激に関連付けられた条件刺激に選択的に応答する神経細胞や、情動条件依存的に選択行動を予測的に表現する神経細胞を見出した。またこれらの神経細胞は、迷走神経からの間接入力を受ける外側椀傍核に相当する部位に多く見つかった。これらの結果は、身体内部の感覚信号が情動と認知の統合した情報処理に関与する可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は脳幹のマッピング記録を単一細胞外記録によって行い、脳幹領域における情動、認知表現を広範に探索した。現在のところ記録対象領域として計画に挙げた青斑核の完全な同定にまでは至っていない。理由としては、規則的な層構造を持たない脳幹での記録位置の把握の難しさにある。多くの核が混在する脳幹では、青斑核周辺のみの探索だけは記録位置の同定が容易ではない。ランドマークとなる脳構造との位置関係を明らかにするために、脳幹の、より広範な領域の探索を行う必要があり、より多くの時間を要した。 情動・認知表現を持つ神経細胞が内臓感覚信号を受け取る細胞であるのかを確認するための手法として迷走神経刺激を計画している。そのための処置として、迷走神経刺激用電極の頸部迷走神経への設置を初年度に計画していたが、完了していない。理由として解剖学的な位置確認や施術練習の機会が多く得られなかったことがあげられる。迷走神経は頸動脈に並行して走行するため、刺激電極の設置には細心の注意が求められる。このことから、生体もしくはそれに準ずる状態の個体での施術練習が必要である。しかしそのような機会には多くは恵まれず、初年度を通してようやく4頭の個体において試験解剖を行った。また、手術に使用予定であった器具の流通が、年間を通して滞っていたことも理由として挙げられる。 セロトニン細胞選択的に光駆動性のチャネルを発現するベクター注入については、計画していた新たな個体への注入には至っていない。既に注入を行った個体での発現状況をみるための組織化学的解析に時間を要していることが原因である。組織化学的解析の結果、発現が充分でなかったことが明らかになった場合、より発現効率の高いベクターを新たに開発する可能性も考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は脳幹のマッピング記録を行い、青斑核の同定を試みている。現在のところ、青斑核のおおむねの位置の把握にとどまっており、情動、認知表現をもつ神経細胞を青斑核において見出すには至っていない。そのため、今後脳幹マッピングによる更なる探索が必要である。また、必ずしも青斑核において情動、認知関連活動が見られない可能性もある。これまでのところ、青斑核の背外側に位置する外側椀傍核に相当する領域において情動・認知関連活動が観察されており、より広範囲な脳幹の探索を行っていくことも計画として視野に入れる。 情動、認知表現を持つ神経細胞が、実際に身体の内部感覚の信号伝達に関与するのかを明らかにするため、迷走神経の順行性刺激によって活性化する神経細胞の同定を行う計画である。既に4頭のサルを用いた試験解剖によって頸部迷走神経の位置の確認を行っており、施術的な準備は整ったと考えられる。手術で使用予定であった一部の器具が未入手の状態であるが、別途特注品の開発に着手するか、もしくは入手を待たず手術する可能性を検討したい。 セロトニン細胞選択的に光駆動性のチャネルを発現するベクターに関しては、現在、既に注入を終えた個体の組織化学的解析により、その発現状態を精査している。仮に発現状態が充分ではないことが明らかになった場合、より発現効率の高いベクター開発を再度行う必要がある。その場合は、最終年度に行う予定である迷走神経刺激による行動、自律神経応答への影響解析を前倒して行うなどして対応したい。
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Causes of Carryover |
現在ウィルスベクターの発現確認のためのヒストロジー解析を行っており、新たな光遺伝学用機材の購入を見送ったため。またコロナウィルス蔓延の影響で旅費の執行が行えず、発注した器具の納品が行えなかった。次年度は、ベクターによるセロトニン神経細胞特異的な発現が確認され次第、機材の購入を行う。また、発注した器具の納品が次年度も難しい場合は、予算を器具の開発費に使用する計画である。
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