2021 Fiscal Year Research-status Report
痛みと痒みのラベルドライン神経回路における脊髄後角モジュールの同定
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21K07303
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Research Institution | Niigata University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
八坂 敏一 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 教授 (20568365)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩井 治樹 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (30452949)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 痛み / 痒み / 脊髄後角 / 局所神経回路モジュール / ラベルドライン |
Outline of Annual Research Achievements |
本来痛みや痒みは、有害な刺激から身体を守るために重要な役割を持つが、慢性化した病態では、本来の役割は失われ、耐え難い痛みや痒みに長時間晒され、QOLの著しい低下をもたらす。特に既存の治療が奏効しないケースが問題であり、より良い治療のためには発症メカニズムの解明が必要不可欠である。近年、痛みと痒みは異なった知覚神経と脊髄後角局所神経回路で処理されることが明らかになってきた。 脊髄後角には様々なインターニューロンが存在する。機能的な分類では、情報伝達を促進する興奮性細胞と、反対に情報伝達を遮断する抑制性細胞がある。また、形態学的分類では4種類の細胞(vertical, islet, radial, central)が認識されている。代表的な興奮性細胞であるvertical cellは、最初痛みの伝達に重要な細胞と報告された。しかし、近年の痒み研究の著しい発展により、痒みの伝達にもvertical cellが関与することが報告された。おそらく、脊髄後角における痛みの伝達にも痒みの伝達にもvertical cellの形態を持つ神経が関わると考えられる。痛みに関わると考えられてきた脊髄後角神経回路の基本モジュールが報告されている。本研究では、この基本モジュールを基に考え、痛みと痒みの基本モジュールはどれほど類似し、何が違うのかについて明らかにすることを目的とする。 研究代表者は、現職に2020年度より赴任し、コロナ禍の影響もあり、実験環境の構築が不十分であったため、本年度は、実験環境の構築に必要な備品を購入し、セットアップを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画では、以下の実験を予定していた。1)脊髄スライス標本を持ちいて脊髄後角細胞からパッチクランプ記録を行い、痒み誘発物質に対する反応を記録し、形態と照らし合わせて、詳細な染色などの解析を行う。2)in vivo標本を用いて脊髄後角細胞からパッチクランプ記録を行い、同様に痒み誘発物質に対する反応を記録し、さらに、皮膚への痛み刺激などに対する反応も記録し、最終的に形態と照らし合わせて解析を行う。 しかし、現時点でこれらの実験に遅れが生じている。その原因となった要因の一つは、現所属機関に共焦点顕微鏡がなく、あわせてコロナウイルス感染症感染拡大防止のために行動制限が行われていることによる。赴任前より、共焦点顕微鏡がないことは把握していたため、他の研究機関で共焦点顕微鏡を使用する必要があることは分かっていたため、研究代表者が以前所属していた佐賀大学の共同実験施設を使用する予定としていた。しかし、思いもよらなかったコロナウイルス感染症感染拡大防止の行動制限のため、佐賀大学での実験を行うことができなかった。他の要因としては、現所属に移動後の実験系構築に時間を要していることであった。研究代表者は、現職に2020年度より赴任した。折しもコロナウイルス感染症拡大を受け、様々な行動制限などが行われ、新しい環境での実験環境の構築に時間を要することとなった。また、教育業務の著しい増加と、新しい環境に合わせた教育資料作成にも時間を要することとなった。これらの理由から本年度は実験環境の構築のための作業にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、計画している実験は、以下のとおりである。1)脊髄スライス標本を持ちいて脊髄後角細胞からパッチクランプ記録を行い、痒み誘発物質に対する反応を記録し、形態と照らし合わせて、詳細な染色などの解析を行う。2)in vivo標本を用いて脊髄後角細胞からパッチクランプ記録を行い、同様に痒み誘発物質に対する反応を記録し、さらに、皮膚への痛み刺激などに対する反応も記録し、最終的に形態と照らし合わせて解析を行う。 組織学的な検討については、佐賀大学の共同実験施設で共焦点顕微鏡を使用するため、コロナウイルス感染症の感染状況とその対策による行動制限の影響を受ける可能性は以前として残っている。そのため、電気生理学的な実験(スライス標本、in vivo標本を用いたパッチクランプ記録)を中心に行う。 近年遺伝子改変動物などを用いた実験が主流になっているが、遺伝子操作によるバイアスも問題であると考えており、本実験のように薬理学的な反応によって細胞の性質を判断するのは時間がかかってしまうが、本来あるべき性質を同定するには最も優れた方法と考えている。また、in vivo標本による脊髄後角細胞のパッチクランプ記録は、世界的にも価値のある方法であり、実際の皮膚刺激による応答と記録細胞を対比させることのできる有効な手段である。また、組織学的な検討が可能であれば、これらに細胞の形態や各神経タイプのマーカーによる染色で特徴付けする予定であり、質の高いデータを得られる。また、遺伝子改変動物の問題点を把握したうえで使用することは有益であると考えているので、そのような方向性も視野に入れている。
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Causes of Carryover |
【現在までの進捗状況】において「遅れている」理由として記したことであるが、研究代表者は2020年度所属機関を移動し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による様々な規制により、共焦点顕微鏡を用いた実験を行うことができなかった。また、教育業務の大幅に増加により、研究できる時間が大幅に減少した。これらの理由により、研究を予定通りに遂行することが困難であった。そのために次年度使用額が生じた。 使用計画としては、共焦点顕微鏡を使用するための旅費・及び使用料が生じる予定である。前述したように、現在の所属機関に共焦点顕微鏡は設置されていないため、佐賀大学の共同実験施設を利用する予定である。新型コロナウイルス感染拡大防止の対策も緩和方向に転じているため、今年度は実施できることを期待している。また、電気生理学実験を行うために、動物購入費・飼育費、痒み誘発物質(合成ペプチドのため高額)、免疫染色用の抗体、各種消耗品が必要となる。であるが、染色に用いる試薬である抗体は単価が高いため、予算が必要である。
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