2023 Fiscal Year Annual Research Report
自閉スペクトラム症における興奮性/抑制性バランス不均衡の分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K07327
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
半野 陽子 東海大学, 医学部, 特定研究員 (50451860)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 環境的要因 / E/Iバランス / 抑制性神経細胞 / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ASDの環境リスク要因に基づくモデルマウス(薬剤曝露モデル・母体免疫活性化モデル)において大脳皮質のVIP陽性抑制性神経細胞が選択的に減少することを明らかにした。さらに、両ASDモデルマウスを用いたRNA-seq解析において発生・分化に重要な分子シグナルの活性が増加すること、またVIP陽性抑制性神経細胞数の減少にはその分子シグナルの活性増加が重要であることを見出した。薬剤曝露で使用する薬剤の薬理作用の一つがヒストン脱アセチル化酵素(HDACs)阻害であることから、モデルマウスと同様の方法で選択的HDACs阻害剤の胎生期曝露を行うと、HDAC3特異的な阻害剤によりモデルマウスに類似した脳病態の変化とASD様行動(社会性行動異常・常同行動)が見られた。このことから、モデルマウスでは選択的にHDAC3の機能が阻害されることが示唆され、HDAC3からエピジェネティック制御を受ける遺伝子の発現変化がASDを引き起こす可能性が考えられる。 モデルマウスで変動する発生時期特異的な分子シグナルを抑制する薬剤を投与すると、VIP陽性抑制性神経細胞の減少およびASD様の社会性行動と常同行動がともに回復した。しかし一方で、VIP陽性抑制性神経細胞に選択的に分子シグナルを抑制するコンディショナルノックアウトマウスで作成したASDモデルでは、ASD様行動異常のうち社会性行動のみを回復したことから、モデルマウスで見られるE/Iバランスの異常は、ASDの常同行動ではなく社会性行動の異常に関連すると考えられる。このように、タイプの異なるASDモデルマウスに共通した発生時期特異的な分子シグナルの変動と、それにより神経への分化が制御されているVIP陽性抑制性神経細胞の減少がASD発症に重要であることを明らかにした。
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