2022 Fiscal Year Research-status Report
高圧力環境と炎症に着目した肺動脈性肺高血圧症の病態解明とバイオマーカー探索
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21K07352
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
加藤 優子 大分大学, 医学部, 教授 (50580875)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 一文 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10335630)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 肺動脈性肺高血圧症 / 肺動脈平滑筋細胞 / Stanniocalcin1 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は肺動脈圧の高度上昇をきたす難治性疾患で、早期診断が極めて困難である。早期診断のためのバイオマーカー研究が多くなされてきたが、未だ実用化に至っていない。そこで、従来の研究とは異なる新たな切り口からの病態解明により、PAHの早期診断バイオマーカーを見出すことが強く望まれている。研究代表者らは加圧培養装置を独自に開発し、これまで不可能であった高血圧の環境下での細胞培養を可能とした。さらに本装置を用いたPAH患者の肺動脈平滑筋細胞の網羅的遺伝子解析より、PAH患者のみで早期病態に重要な加圧と炎症の存在下で著増する分子「Stanniocalcin1(STC1)」を見出した。そこで本研究では独自技術の加圧培養装置を用いて、STC1がPAH早期病態に果たす役割を圧力と炎症に着目して解明し、新たな切り口からPAHの早期診断に有用なバイオマーカーを見出すことを目的に研究をおこなっている。今年度は、STC1欠損マウス・野生型マウスを用いて低酸素誘発性肺高血圧モデル(FiO2 10%、4週間)を作成し、心エコー、心臓カテーテル、組織学的評価を行った。その結果、STC1欠損肺高血圧モデルマウスでは、野生型と比較して有意に右室収縮期圧、肺動脈中膜肥厚度が上昇した。さらに、PAH患者から得た肺動脈平滑筋細胞は高圧力に反応してSTC1が上昇した。以上より、STC1欠損はPAH病態を悪化さることが示唆され、STC1が高圧力から細胞を保護するために分泌されている可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、PAHモデルマウスの作製とその評価法を確立し、STC1がPAHを抑制する可能性をin vivoにて確認した。初年度における予備実験では、STC1欠損はPAH病態を悪化さることが示唆されていたが、今年度はモデル作製方法や評価法を改良したことにより、安定した評価が可能となった。その結果、STC1欠損肺高血圧モデルマウスでは、野生型と比較して有意に右室収縮期圧、肺動脈中膜肥厚度が上昇した。さらに、PAH患者から得た肺動脈平滑筋細胞は高圧力に反応してSTC1が上昇した。すなわち、昨年度の予想とは異なり、STC1が高圧力から細胞を保護するために分泌されている可能性が強く示唆された。以上のように本年度までに、STC1の肺動脈性肺高血圧症における役割をin vivoで確認することができ、STC1がPAHを抑制する可能性が確認されている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、今年度までにSTC1欠損マウスを用いたPAHモデルから得られた結果をもとに、STC1を介したPAH病態の発症や進展にかかわる分子メカニズムを、独自に開発した周期的加圧培養装置を用いて、STC1がPAH早期病態に果たす役割を圧力と炎症に着目して、STC1欠損マウスから初代培養にて得た肺動脈平滑筋細胞を用いた加圧培養実験で解明して行く予定である。加えて、PAH患者肺動脈平滑筋細胞を用いた加圧と炎症によるSTC1産生促進メカニズムの解明、ライブイメージングを用いたSTC1の機能評価、PAH患者細胞を用いて構築する三次元血管モデルによる病態解明、PAH患者組織を用いたSTC1のPAH病態における役割の解明、PAHモデルマウス・ラットでの血中STC1濃度測定と重症度との比較を行う。これらにより、新たな切り口からPAHの早期診断に有用なバイオマーカーを見出すことを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画から、実験を行う順番を変更したため、使用予定であった試薬などの総額に変更が生じたため次年度使用額が生じた。次年度は、当初の計画では初年度に行う予定であったPAH患者肺動脈平滑筋細胞を用いた加圧と炎症によるSTC1産生促進メカニズムの解明、ライブイメージングを用いたSTC1の機能評価、PAH患者細胞を用いて構築する三次元血管モデルによる病態解明、PAH患者組織を用いたSTC1のPAH病態における役割の解明、PAHモデルマウス・ラットでの血中STC1濃度測定と重症度との比較を行うための細胞培養試薬や生化学的、分子生物学的試薬などの購入に使用する。さらに、研究発表のための旅費や、論文投稿費などへの使用を予定している。
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