2023 Fiscal Year Research-status Report
高圧力環境と炎症に着目した肺動脈性肺高血圧症の病態解明とバイオマーカー探索
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21K07352
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
加藤 優子 大分大学, 医学部, 教授 (50580875)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 一文 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10335630)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 肺動脈性肺高血圧症 / Stanniocalcin 1 / 低酸素誘発性肺高血圧モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
肺動脈性肺高血圧症は肺動脈圧の高度上昇をきたす難治性疾患で、早期診断が極めて困難である。研究代表者らは加圧培養装置を独自に開発し、これまで不可能であった高血圧の環境下での細胞培養を可能とした。さらに本装置を用いた肺動脈性肺高血圧症患者の肺動脈平滑筋細胞の網羅的遺伝子解析より、早期病態に重要な加圧と炎症の存在下で著増する分子「Stanniocalcin1(STC1)」を見出した。本研究では独自技術を用いて、STC1が肺動脈性肺高血圧症早期病態に果たす役割を圧力と炎症に着目して解明し、新たな切り口から肺動脈性肺高血圧症の早期診断に有用なバイオマーカーを見出すことを目的として本研究をおこなった。 独自の静水圧印加装置を用いて加圧培養した肺動脈平滑筋細胞のRNA-シーケンスを行い、特発性肺動脈性肺高血圧症患者で基礎発現量が多く、圧力に反応して発現が増加するSTC1遺伝子を見出した。特発性肺動脈性肺高血圧症患者の肺動脈平滑筋細胞にSTC1を添加して検討を行ったところ、細胞増殖マーカーBrdUの取り込みが減少し、細胞周期を停止させるp38/p53/p21経路の関連蛋白が増加した。さらに、低酸素誘発性肺高血圧モデルをSTC1欠損マウスで作製すると、野生型と比較して右室収縮期圧、肺動脈中膜肥厚度、細胞増殖マーカーPCNA陽性肺動脈平滑筋細胞の割合が有意に増加した。 本研究により、圧力応答分子STC1は、肺動脈平滑筋の細胞周期停止を介して肺動脈平滑筋細胞による肺血管リモデリングを抑制すると考えられ、特発性肺動脈性肺高血圧症のバイオマーカーとなる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度に研究代表者が所属機関を異動した。そのため、新たに研究室を立ち上げて本研究を再開するための準備期間が必要となったため、当初の予定より進捗は遅れている。 しかしこれまでに、肺動脈平滑筋細胞での検討および、低酸素誘発性肺動脈性肺高血圧症モデルマウスでの検討をおこなうことができている。肺動脈性肺高血圧症患者・非肺動脈性肺高血圧症患者の肺動脈平滑筋細胞にSTC1 siRNA、STC1リコンビナント蛋白を添加して、細胞増殖能をBrdUのELISAで評価した結果、STC1のノックダウンで肺動脈平滑筋細胞の細胞増殖能は有意に増加し、STC1リコンビナント蛋白の投与で細胞増殖能は低下した。 また、STC1欠損マウス・野生型マウスを用いて低酸素誘発性肺動脈性肺高血圧症モデル(FiO2 10%、4週間)を作製し、心エコー、心臓カテーテル、組織学的評価を行った結果、STC1欠損肺動脈性肺高血圧症モデルでは野生型と比較して有意に右室収縮期圧、肺動脈中膜肥厚度の増加が認められた。肺動脈中膜肥厚はα-SMA陽性平滑筋細胞が主体であり、さらに、細胞増殖マーカーであるPCNA陽性平滑筋細胞の割合はSTC1欠損肺動脈性肺高血圧症モデルで有意に増加したことが示された。以上より、圧力応答分子STC1は、肺動脈平滑筋の細胞周期停止を介して肺動脈平滑筋細胞による肺血管リモデリングを抑制すると考えられ、早期病態に重要な加圧と炎症の存在下で著増することから、STC1は肺動脈高血圧症の早期バイオマーカーとして有用となる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで肺動脈平滑筋細胞での検討および、低酸素誘発性肺動脈性肺高血圧症モデルマウスでの検討をおこない、圧力応答分子STC1が、肺動脈平滑筋の細胞周期停止を介して肺動脈平滑筋細胞による肺血管リモデリングを抑制することが示唆された。STC1は早期病態に重要な加圧と炎症の存在下で著増することから、肺動脈高血圧症の早期バイオマーカーとして有用となる可能性がある。そこで今後は、健常肺、遺伝性肺動脈高血圧症および特発性肺動脈高血圧症患者の肺動脈組織を採取し、STC1を介した作用が患者組織でも存在するか確認する。また、野生型マウス肺動脈高血圧症モデルおよび健常野生型マウスの血中STC1濃度をELISA法により測定し、肺動脈高血圧症モデルで有意に高値となることや、個体差の有無を確認する。次に、末期までの肺動脈高血圧症進展を再現できるVEGFR2阻害薬単回投与に10%低酸素と正酸素暴露を組み合わせたモデルラットを作製し、血中STC1濃度、右室収縮期圧、内膜肥厚形成度を経時的に計測しSTC1血中濃度と肺動脈高血圧症の重症度を比較評価する。これにより、血中STC1濃度が早期肺動脈高血圧症を評価するバイオマーカーとして有用であることが確認されれば、PAH患者サンプルを用いた臨床研究に向けて準備を開始する。
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Causes of Carryover |
研究代表者が2022年度に所属機関を異動し、新たな研究室を立ち上げた。そのため、本研究を新たな機関でおこなうための準備期間が必要となり、進捗に遅れが生じた。そのため、本年度に予定していた実験や、国際学会での発表を翌年度におこなうこととした。そのために次年度使用額が生じた。
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