2021 Fiscal Year Research-status Report
Functional analysis of bacterial cellulose synthesis to overcome biofilm infections
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21K07355
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Research Institution | Nihon institute of Medical Science |
Principal Investigator |
菅原 佳奈子 日本医療科学大学, 保健医療学部, 助教 (00551087)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | セルロース合成酵素 / 膜タンパク質 / 複合体タンパク質 / バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、感染症の難治化の要因であるバイオフィルムの合成機序を明らかにするため、バイオフィルムの主成分であるバクテリアセルロース(BC)の合成機構の解明に取り組んでいる。BCは細菌の細胞膜上に存在するセルロース合成酵素複合体(TC)によって合成されている。本研究ではBC合成機構の中でも特に、(1)合成されたセルロース鎖を菌体外へ排出すると推測されるBcsCサブユニットの立体構造(2)内膜のBcsABによって合成されたセルロース鎖がどのように外膜のBcsCに受け渡され、菌体外へ導かれるのか、の2点に注目して研究を進めている。 2021年度の実績として、 まず(1)について、BcsCの単離精製のため、酢酸菌ゲノム上のTCを構成するBcsサブユニットに精製用のヒスチジンタグを挿入することに取り組んだ。相同組換えにより、BcsA、BcsBの末端にヒスチジンタグが付加されるように酢酸菌のゲノムを改変した。 次に(2)について、内膜のBcsABと外膜のBcsCとの会合状態の解明に取り組んだ。BcsABとBcsCとの会合については、直接の結合と、別の分子を介した結合のいずれであるか分かっていない。TCにはBCの合成や輸送においてメインに機能するサブユニットの他に、機能不明のアクセサリーサブユニットが存在する。結合に関与する可能性の高いサブユニットとして、TCのアクセサリーサブユニットであるBcsD、Ccp、CMCaseの3つのタンパク質を組換え発現し、これらのタンパク質同士が会合して複合体を形成するかどうか確認した。ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子質量の測定結果から、BcsDとCcpの組み合わせで分子質量の大きい複合体の形成が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には、酢酸菌の遺伝子組換えを行うことが必要である。特に研究実績の概要で(1)として述べたBcsCの構造解明において、X線結晶構造解析に必要とされる量の精製タンパク質を得るためには組換えが必須である。酢酸菌は大腸菌のようには遺伝子組換え技術が確立されておらず、酢酸菌の遺伝子組換えを長年行ってきている我々のグループにおいても、相同組換えによりゲノム自体を改変して精製用のタグを組込むことは容易ではない。しかしながら、2021年度の成果としてBcsA、BcsBの末端にタグを組込むことに成功しており、近日中にBcsCにおいても達成する見込みである。 次に、研究実績の概要で(2)として述べたBcsABとBcsCとの会合状態と介在する因子の解明においては、TCのアクセサリーサブユニットであるBcsDとCcpとが会合することを明らかにした。BcsDは8量体を取りペリプラズムに局在することが報告されており、その形状からBcsABとBcsCの間に存在してセルロース鎖の受け渡しに関与するとの仮説も提唱されている。今回得られたBcsDとCcpの複合体の分子質量は、BcsDとCcpが会合すること、BcsDが多量体(おそらく結晶構造と同じ8量体)を取ることを裏付けた。細胞の破砕と遠心分離による細胞成分の分画は一定のコンタミネーションが生じることを避けられない。従って、過去の報告や今回の結果のみでBcsDとCcpが内膜と外膜の間(ペリプラズム)に存在すると確定することはできないが、BcsDやCcpなどのアクセサリーサブユニットがペリプラズムでBcsABとBcsCの会合を介在するという本研究の仮説に矛盾しない結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」に記載したように、(1)セルロース鎖の排出部であるBcsCの構造の取得を目指して精製BcsCタンパク質の発現・精製を行う。しかしながら、BcsCは非常に分子質量の大きい膜タンパク質で、大腸菌などの宿主による発現は難しいと予想される。実際、世界中でTCの研究が行われているにも関わらず、BcsC全長の組換え発現の報告はない。一方で、発現条件や宿主を詳細に検討することで、分子質量の大きい膜タンパク質の発現に成功した例も多く存在する。そこで、効率よく組換え発現する条件を検討しつつ、並行して酢酸菌から組換え発現によらず精製することを試みる。酢酸菌からBcsCを精製する方法として、精製用のタグを組込む方法と、遺伝子組換えを行わない野生型の酢酸菌から界面活性剤により抽出する方法を検討する。 一方、本研究のもう1つのアプローチである(2)BcsABとBcsCの会合状態の解析については順調に進んでおり、今後も計画通り進める。昨年度の研究で明らかにしたTCのアクセサリーサブユニット同士であるBcsDとCcpの複合体が、メインのサブユニットであるBcsABやBcsCと会合するかどうか調べる。我々はBcsA、BcsB、BcsC、BcsDに対する抗体を既に作製している。これらの抗体を用いた免疫学的解析により、サブユニット同士の会合および共局在を確認する。必要であれば、Ccpに対する抗体を作製することも行う。
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Causes of Carryover |
まず物品費について、研究代表者が2021年4月より所属変更したため、研究機関の設備が申請時と異なっている。そのため、課題の遂行のために購入が必要な機器に変更が生じ、現在再検討中である。次に旅費について、2021年度は新型コロナウイルス感染症の流行は収束に至らず、海外への学会出張が認められなかった。次年度以降、学会出張が認められる状況になれば国際学会での研究発表のために使用したい。その他の支出について、論文のオープンアクセス費を共同研究者が負担したため、予定した金額を使用しなかった。本項も雲次年度に繰り越し、次の論文発表で使用する。
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Research Products
(1 results)