2022 Fiscal Year Research-status Report
うつ病モデルラットにおける海馬シータ波異常の出現機序の解明
Project/Area Number |
21K07491
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
楯林 義孝 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (80342814)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | うつ病 / 社会敗北ストレス / 海馬 / シータ波 / 前脳基底核内側中隔核 / ミエリン / 脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
うつ病は持続する抑うつ感や興味、喜びの消失を主症状とする精神疾患で、睡眠障害や精神運動抑制、認知機能障害など多彩な副症状を伴う。その病態解明にはモデル動物が欠かせない。我々は、社会敗北ストレスをラットに用いる系で長年検討し、その結果、BNラットをaggressive resident(攻撃ラット)、そしてSDラットをintruder(試験ラット)に用いることで、SDラットに長期間のmaladaptive(病的)な社会回避行動と睡眠障害、海馬依存性恐怖記憶障害を生じるモデル系の作製に成功した(Matsuda Y et al. (2012) Sci Rep 11: 16713)。それらのラットの解析から、病的社会回避行動が海馬θパワー値の増減と有意に相関する結果を得た。すなわち海馬θパワー値がうつ症状を反映する指標となる可能性を示唆する。海馬θパワー値低下の原因には海馬内では歯状回の神経新生異常などが考えられるが、 海馬外では前脳基底核内側中隔核(Medial septum: MS)- 海馬神経回路(Septo-hippocampal pathway:SHP)の異常によるθ波形成異常が考えられる。本研究ではSHP異常に焦点を当て、ミエリン化・炎症・酸化ストレスなどに注目し、海馬θパワー値低下の原因解明を目指す。現在、SHPのミエリン化(特に脂肪酸分画異常)に焦点を当てた解析を行っている。脂肪酸分画の解析には我々が独自に開発した新しい解析法 (Tatebayashi Y et al. (2012) Transl Psychiatr 2;e204)を用いて行い、Control vs. stress間でのSHPの脂肪酸分画の変化を解析したところ、ミエリンに関連するオレイン酸の異常などが見出された。論文投稿準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の注目するSHPによるθ波形成異常の発症機序として炎症が最も注目される。炎症のSDSモデル動物における関与を検討するために、Colony stimulating factor 1 受容体(CSF1R)阻害剤を投与しその効果を検討した。CSF1Rの刺激は、脳内炎症において中心的役割を持つミクログリアの生存に必須である。つまりCSF1R阻害剤投与は脳内ミクログリア数を減少させる。2週間の投与で約3割のミクログリアの減少が、前頭葉・海馬・扁桃体で認められた。それに伴い、うつ病様の回避行動・睡眠障害・海馬θパワー値低下が全て改善された。さらに、病的社会回避行動が海馬θパワー値の増減と有意に相関するという現象が再現された。この結果はSDSモデルでのうつ病発症にミクログリアが中心的役割を果たしていること、さらには海馬θパワー値を制御するSHPに異常が生じ、その異常がCSF1R阻害剤で改善されることが抗うつ効果において重要な役割を持つ可能性を示唆する。現在、SHPの脂肪酸分画を解析し、ミエリン化異常の有無に関して詳細な解析を行っている。データがまとまり次第、投稿予定である。以上の成果などから、概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
我々が独自に開発した新しい脂肪酸解析法(Tatebayashi Y et al. (2012) Transl Psychiatr 2;e204)は、脳組織の脂肪酸異常をかなり精密に分析できる。先ずは、解析中のデータをまとめ、2023年度中に論文化の目処を目指す。その後は、電顕を用いたミエリン形態の異常を各群で比較する予定である。
|
Causes of Carryover |
予定していた論文が投稿に至らず残額が生じた。未使用学は次年度の学会参加費および海外有名雑誌の投稿料に充てる。
|