2022 Fiscal Year Research-status Report
脳腫瘍の集学的治療時に生じる認知機能障害と脳内毛細血管密度の解析
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21K07609
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Research Institution | Nagasaki International University |
Principal Investigator |
高井 伸彦 長崎国際大学, 薬学部, 教授 (70373389)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 炭素線治療 / 脳機能 / 放射線防護 / 粒子線治療 / 放射線脳壊死 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、『悪性脳腫瘍の集学的治療に伴う脳壊死と高次脳機能障害機序の解明と、それを軽減させるための放射線防護剤の開発による患者QOLの向上』である。放射線治療による脳壊死を想定したこれまでの報告は、放射線照射して数ヶ月から数年後に生じる 病理組織変化の解析や、晩発期における認知機能の解析が主である。しかし、それらの病理組織変化に先行し,臨床においても治療中や治療後すぐに注意・認知能力の低下などの報告が多数あり、晩発期へとつながる早期の認知機能障害やその機序の解析は行われおらず、集学的治療を想定した報告は全くない。我々はすでに基礎実験として、中枢神経だけでなく腸に多く存在することが知られている NMDA受容体の阻害剤(脳機能に影響を与えない用量)を用いることで、放射線照射前および照射後に投与しても、マウス腸管クリプト数を指標とした場合に、有意な防護効果があることを明らかにしてきた。このことは、炭素線照射により腸だけでなく脳においても、NMDA受容体が活性化されている可能性が示唆されることから、今回我々は、NMDA受容体の活性化に関与する種々のアミノ酸をHPLCを用いて経時的に一斉分析を試みたところ、興奮性アミノ酸に分類されるグルタミン酸濃度の炭素線照射線量に依存的な増加が認められた。その一方で、抑制性アミノ酸であるGABAの線量依存的な減少がみられたことから、NMDA受容体の活性化には、時間および線量依存的なグルタミン酸の増加と、GABAの低下が生じていることが関与していることが推察され、これらの内容は、第2回日本量子医科学会にて、シンポジストとして『炭素線脳局所照射による認知機能障害と遅発性脳壊死との関連性について』にて成果発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
放射線脳壊死は、重粒子線治療において最も注意が必要な副作用の1つであるが、今年度の研究成果によって、その副作用を軽減する可能性が示されたと考えられる。特に脳壊死に関与するNMDA受容体が、いかなる理由によって活性化されるのかを、種々のアミノ酸に一斉分析によって、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸の経時的な増加だけでなく、抑制性アミノ酸であるGABA濃度の一時的な低下が関与していることが明らかとなり、興奮性と抑制性のバランスが崩れたときに、NMDA受容体が活性化するのであれば、単純に1つのアミノ酸濃度変化を追うのでなく、複合的に測定することで、より有効的な薬剤投与時間の推定が可能になることが推察された。
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Strategy for Future Research Activity |
炭素線(重粒子線)照射による脳や腸の障害をいかにして軽減できるかについて、今回の結果は大きなヒントとなっており、照射前にしか効果のなかったこれまでの放射線防護剤と異なり、照射後や治療後においても正常組織のダメージを軽減できるかについてさらなる検証を行う必要が生じた。特にグルタミン酸濃度の炭素線照射線量に依存的な増加や抑制性アミノ酸であるGABAの線量依存的な減少を示した結果に基づき、最適なタイミングでの放射線防護剤の投与実験を行うことで、その効果を明にしたいと考えている。
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[Journal Article] Persistent elevation of lysophosphatidylcholine promotes radiation brain necrosis with microglial recruitment by P2RX4 activation.2022
Author(s)
Natsuko Kondo, Yoshinori Sakurai, Takushi Takata, Kuniyuki Kano, Kyo Kume, Munetoshi Maeda, Nobuhiko Takai, Shugo Suzuki, Fumihiro Eto, Kenji Kikushima, Hideki Wanibuchi, Shin‐Ichi Miyatake, Takayuki Kajihara, Shoji Oda, Mitsutoshi Setou, Junken Aoki & Minoru Suzuki
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 12
Pages: -
Peer Reviewed / Open Access
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