2021 Fiscal Year Research-status Report
重粒子線照射に特徴的なDNA二本鎖切断の修復機構の解析
Project/Area Number |
21K07658
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
泉 雅子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 専任研究員 (00280719)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | DNA修復 / 重粒子線 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトHeLa細胞にX線あるいは重粒子線(線エネルギー付与率:80~300 keV/micrometer)を照射した後に、界面活性剤処理によりクロマチン結合画分を得て、DNA損傷に応じてクロマチン上にリクルートされてくる修復タンパク質をウエスタンブロットにより解析した。X線、重粒子線いずれの場合も、非相同末端結合の活性化の指標となるDNA-PKタンパク質のリン酸化は、線量に比例して増加した。一方、相同組換えの指標となるRad51タンパク質のクロマチン結合量は、X線照射の場合は15Gyまでは線量に依存して増加したが、30Gyを超えると逆に減少し、高い線量では効率的にクロマチンに結合していないことが示された。重粒子線の場合は、5Gyまでは増加したが15Gy以上で減少し、より低い線量で減少に転じていることが示された。これらの結果は、線量が増加すると相同組換えが起こりにくくなっていることを示唆しており、修復経路の選択が線質のみならず線量にも依存していることを示唆している。 また、DNA-PKの阻害剤(NU7441)、ヒストンデアセチラーゼの阻害剤であるトリコスタチンAで処理した後に、重粒子線を照射しコロニー形成法により生存率を調べた。いずれの阻害剤を用いた場合も低い線領域(2~3Gy)では生存率が低下し放射線感受性が亢進したのに対し、線量が上がるにつれてその効果が減弱し、高い線領域(5~7Gy以上)では逆に生存率が増加し放射線に対して抵抗性が増した。この結果は、上記の結果と同様に、線量により異なる修復経路が使われていることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初計画していた通り、DNA損傷にリクルートされる修復タンパク質をクロマチン上に保持したまま分画する系を確立し、非相同末端結合、相同組換えと線量との関係について興味深い結果を得ることができた。また、阻害剤の影響についても予想外の結果が得られた。一方、修復経路の選択が線量に依存していることが判明したため、蛍光抗体法による解析については照射条件の再検討が必要となり、生化学的解析がある程度進み解析に適した線量が明らかになってから実験を再開する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
照射線量が高くなると相同組換えに代わり代替的非相同末端結合や一本鎖アニーリングが機能している可能性がある。そこで、これらの修復経路の関与を検討するため、様々な線量の重粒子線を照射した後に、代替的非相同末端結合や一本鎖アニーリングに特異的な修復タンパク質(DNA polymerase theta, Rad52など)の局在変化を蛍光抗体法により検討する。また、これらの修復タンパク質のクロマチンへの結合をウエスタンブロットにより調べ、細胞内での動態や翻訳後修飾について解析する。さらに、非相同末端結合やヒストンデアセチラーゼの阻害剤で処理して異なる線量で照射し、非相同末端結合や相同組換えがどのような影響を受けるか、それぞれの経路の特異的な修復タンパク質(DNA-PKcs, Rad51)の細胞内局在を蛍光抗体法で観察したり、クロマチン分画法とウエスタンブロット法により明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス 蔓延の影響で、年度途中まで加速器実験が予定通り実施できなかったため当初の計画通り研究費を使いきれなかった。さらに、前年度も同様の理由で計画通り実験できなかったため余剰の消耗品のストックが生じ、今年度の購入量が予定よりも減ったことも次年度使用額が生じた理由である。
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