2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞系譜解析を用いたZone3肝細胞の肝障害時の挙動と発癌起源としての可能性
Project/Area Number |
21K07887
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和気 泰次郎 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (60895267)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 勇人 三重大学, 医学系研究科, 教授 (00555609)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 肝細胞癌 / 肝再生 / Wnt/βカテニンシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
肝臓はその解剖学的位置から、門脈周囲のzone1、肝静脈周囲のzone3、その間のzone2に分けられるが、発癌への寄与にzoneによる違いがあるのかはわかっていない。中でもzone3は肝発癌に重要なWnt/βカテニン経路が持続的に活性化しており、発癌リスクが高い可能性がある。本研究では、zone3肝細胞を持続的にgenetic labelする手法を確立し、zone3肝細胞の肝再生における役割および癌起源としての可能性を検討した。 Wnt/βカテニン経路の標的遺伝子Axin2-CreERマウスとLSL-Tomatoマウスを交配させ、3週齢でタモキシフェンを投与すると肝静脈側約1/3、すなわちzone3がRFPで標識され、同領域は代表的zone3マーカーCYP2E1の発現に一致していた。標識から1年後もRFP陽性細胞の割合はほぼ変化せず、この手法によりzone3肝細胞を持続的に標識可能となった。この手法を用い、化学発癌剤、炎症発癌、トランスジェニックなど5種類のマウス肝癌モデルを作製し、その発癌起源としての可能性を細胞系譜解析により検討した結果、zone3肝細胞は全体に高い発癌能を持っていた。DEN誘導性肝癌ではWnt/βカテニン経路の変異や活性化はきわめて少ないことが、興味深いことに発癌過程のzone3に存在する前癌病変においては、高頻度に同経路が活性化していた。よってzone3で供給される外因性Wnt/βカテニンシグナルは、初期の発癌プロセスに重要な役割を果たしているのではないかと考え、Wnt阻害剤LGK974による発癌予防の可能性について検討することとした。Wnt阻害剤をDEN投与後2-5か月の間投与し8か月後に解析した結果、有意に発癌が抑制されることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞系譜解析によってZonn3肝細胞の発癌起源としての可能性を明らかにすることができたこと、またWnt/βカテニンシグナルが肝癌の予防治療標的となり得ることを示すことができた点から、順調に進んていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
近年肝細胞癌をmetabolic zonationの観点から分類するという研究が行われており、Desertらは肝細胞癌をその発現パターンからperiportal signature (すなわちzone1 signature)とperivenular signature (すなわちzone3 signature) のsubclassに分けて解析すると、zone1 signatureのほうが予後がよいことを報告している。この論文はeditorialでも取り上げられており、その中で、“このsignatureが発癌の過程で獲得されたものなのか、発癌母地に由来するものなのかはわからない”、という新たな問題提起がなされている。今回我々が見出した手法を用いればzone3肝細胞がRFPで標識されるため、できた腫瘍がRFP陽性であればzone3由来、陰性であればzone1/2由来と考えることができる。そこで各マウスモデルで発生した腫瘍のmetabolic zonation markerの発現をRFP発現別に解析することによって、この疑問に答えることが可能であると考え、現在検討を進めている。 また肝障害時の増殖肝細胞におけるWnt/βカテニンシグナルの役割についても検討を進めている。
|