2021 Fiscal Year Research-status Report
胃の分化型腺癌モデルマウスA4gnt欠損マウスを用いた発癌メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K07911
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小村 仁美 信州大学, 医学部, 特任助教 (30616032)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 胃癌 / 分化型腺癌 / A4gnt欠損マウス / α4GnT / αGlcNAc / MUC6 / TFF2 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究室では、胃粘膜液中の糖鎖αGlcNAcを生合成する糖転移酵素α4GnTを単離し、その遺伝子欠損マウスであるA4gnt欠損マウスを作製した。全ての変異マウスで胃の幽門部に分化型腺癌が自然発症したことから、αGlcNAcは分化型腺癌の発生を抑制する因子と考えられるが、その詳細な機構は明らかになっていない。A4gnt欠損マウスは、生後早い段階で胃の幽門部が過形成を引き起こすことから、病理学的変化に至る要因の解明のためには、胎児期の解析が必要であると考えて研究を始めた。 TaqManリアルタイムPCRを用い、胎児胃におけるmRNAの定量的解析を行った。現在までに、α4GnT および、αGlcNAcが結合するムコチンコアタンパク質MUC6や、MUC6と結合し癌との関連が報告されているTFF2、TFF1のmRNAの発現量の変化を明らかにした。野生型マウスでは、α4GnTは、E13.5から発現し、E19.5にかけて増加する。MUC6、TFF1、TFF2は、E15.5から発現が上昇し始め、特に、TFF1とTFF2では、E18.5以降で急激に発現上昇した。A4gnt欠損マウスでは、MUC6、TFF1、TFF2において、E18.5以降の発現上昇は緩やかで、TFF1、TFF2の発現上昇はほぼ見られなかった。また、これら分子の免疫組織蛍光染色を行ったところ、特に、TFF2の染色で驚くべき結果が観察された。TFF2では、E14.5以降でタンパク質の局在が見られ、A4gnt欠損マウスでも変わらなかったが、hindstomachの胃底腺におけるTFF2の局在はE18.5以降で消失し、幽門腺付近にのみ局在が観察された。これらのことから、A4gnt欠損マウスでの分化型腺癌発症のトリガーとなる分子変化がマウス胎児胃のE17.5からE18.5の間に起こる可能性が考えられ、その点に着目して研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、野生型マウスおよびA4gnt欠損マウスにおけるαGlcNAc 、MUC6、TFF1、TFF2のmRNAレベルでの経時的な発現量の変化を明らかにした。A4gnt欠損マウスでは、野生型マウスと比較してE17.5まではMUC6、TFF1、TFF2の発現量は変わらないが、E18.5以降で顕著に減少することを確認した。 次に、αGlcNAcおよびTFF1とTFF2特異抗体を用いて、野生型マウスおよびA4gnt欠損マウスの免疫蛍光組織染色を行った。その結果、αGlcNAcは、野生型マウスではE15.5から局在を認めた。そして、TFF2はTFF1と同様にE14.5からタンパク質の局在が見られ、A4gnt欠損マウスでは変化は見られなかった。しかしながら、A4gnt欠損マウスでは、hindstomachの胃底腺におけるTFF2の局在は消失し、幽門腺付近にのみ局在が観察されるという驚くべき結果が得られた。 また、抗マウスMUC6特異抗体をウサギを用いて作製し、この抗体での免疫蛍光組織染色を行った。その結果、MUC6は野生型およびA4gnt欠損マウスにおいてE14.5以降の胃で局在が認められたが、局在部位に変化は認められなかった。 胎児胃の増殖に関して、BrdU取り込み細胞の定量やHE染色の観察から増殖レベルに差はないと考えられた。 以上の知見から、A4gnt欠損マウスでは、E17.5からE18.5の間で分化型腺癌発症のトリガーと成る分子変化が起こると考えた。野生型とA4gnt欠損マウスのE17.5およびE18.5の胃から作製したプローブを用いたマイクロアレイ実験により、関連分子の網羅的探索を行った。その結果、いくつかの注目すべき分子が確認され、今後はそれら分子とαGlcNAcおよびαGlcNAc関連分子であるMUC6 、TFF1、TFF2の関係に着目して解析を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、野生型マウス及びA4gnt欠損マウスにおけるαGlcNAc 、MUC6、TFF1、TFF2のmRNAレベルでの経時的な発現量の変化を明らかにし、A4gnt欠損マウスでは、野生型マウスと比較してE18.5以降で顕著に発現量が減少することを確認した。また、MUC6、TFF1、TFF2の分子局在を蛍光免疫染色法により調べ、A4gnt欠損マウスでは、特にTFF2の局在の部分的な消失という大きな変化が見られることを、mRNA発現に変化の見られるE17.5からE18.5にかけて観察した。このことから、A4gnt欠損マウス胃ではE17.5からE18.5の間でその後の病理学的変化を引き起こす原因となる変化があると考えられた。これらの実験結果から、野生型マウス及びA4gnt欠損マウスのE17.5とE18.5の胃からプローブを作製し、マイクロアレイ実験により発現変化する分子を網羅的に探索したところ、いくつかの興味深い分子が得られた。マイクロアレイ実験はN=1で行ったため、統計的に優位な差があることを確認するために、N=6以上で、E13.5からE19.5の胎児期の胃を用いたリアルタイムPCR法により、mRNA発現量の変化を検討する予定である。再現性が確認された分子に関しては、その遺伝子をノックダウンした時の影響についても培養細胞レベル、または個体レベルで明らかにしたい。そして、A4gnt欠損マウス胃の過形成および分化型腺癌発症のトリガーとなる分子を明らかにし、その分子とαGlcNAcの関係から発癌メカニズムの解明を行いたいと考えている。 最終的には、ヒト分化型胃癌の病理標本を用いて、A4gnt欠損マウスに見られた発現量や局在の変化がヒトにも観察されるか、また、その同様な変化の見られる標本の割合はどれほどかを明らかにして、医療の進歩に貢献したいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和3年度の研究において次年度使用額が生じた理由であるが、マイクロアレイ実験を外注により行ったが、データの納品が令和4年度の支払いになったことによる。そして、抗体や試薬類を購入したが、RNA抽出キットやプラスチック製品は研究室でまとめ買いをしていたものを使用することが出来たため、これら消耗品の購入額は当初の見込みよりも執行額が低くなっている。 次年度使用の計画に関しては、マイクロアレイ実験で得られた結果の再現性を得るために、リアルタイムPCRを行う予定であるが、実験で使用する複数のTaqManプローブを購入予定である。また、実験試薬、酵素、抗体、プラスチック用品等の消耗品等の購入も検討している。今年度からは、動物実験施設に払う飼育費用も一部負担することになっている。得られた研究成果に関して学会発表を行いたいと考えており、そのための学会参加費、滞在費などもかかる予定である。また、研究成果は論文発表することが決まっており、英文校閲費や投稿費用に充てたいと考えている。
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