2021 Fiscal Year Research-status Report
萎縮性胃炎オルガノイドからの腸上皮化生、腸型胃がん発がんモデルの構築
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21K07915
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
有山 寛 九州大学, 大学病院, 助教 (80713437)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | LGR5 / WNT / LATS2 / RUNX / 萎縮性胃炎 / 腸上皮化生 / BMPシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
萎縮性胃炎検体から樹立したオルガノイドではCLDN18、MUC6の発現がみられ、胃型形質を保持していた。臨床検体での解析から健常部ではLGR5陽性細胞は検出困難であったが、萎縮性胃炎では有意にLGR5発現細胞が増加しており、萎縮性胃炎から樹立したオルガノイドも多くがLGR5陽性であった。WNT3a・R-spondinを添加しない培地ではLGR5陽性細胞の減少を認めた。臨床検体においては腺底部にWNT3aを発現する細胞が認められ、これらが萎縮性胃炎においてLGR5細胞のニッチとして機能する可能性が考えられた。 LATS2あるいはRUNX3をノックアウトしたオルガノイドにおいてCDX2の発現が亢進していることは既に確認している。LATS2 KOによる腸上皮化生のメカニズムとしてBMPシグナルの関与を検証するため、BMPシグナルの下流であるID1~4の発現を定量的PCRで評価をした。さらにCRISPR-Cas9システムを用いてTP53あるいはSMAD4をノックアウトした。LATS2またはRUNX3に加えてTP53あるいはSMAD4をノックアウトすることで、マウスにおける造腫瘍性が確認できた。さらにTP53と比較して、LATS2 or RUNX3/SMAD4 double knock outオルガノイドを移植した場合では、腫瘍内に浸潤するCD68陽性マクロファージが有意に増加しており、CCL2のmRNA発現が亢進しており、腸型胃がんにおける炎症性の微小環境構築にSMAD4が関与する可能性が示唆された。 コヒーシン構成分子の異常による染色体不安定性の誘導を目的に、胃がんAGS細胞株を用いて予備実験を行った。STAG1遺伝子をCRISPR-Cas9システムで用いてノックアウトし、染色体不安定性をmFISHで解析を行ったが、STAG1遺伝子のノックアウトによる染色体異常の増加は認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで使用していたCorning社のマトリゲル基底膜マトリックスの供給停止によりオルガノイド培養研究が遅滞している。代用品をいくつか試しているが、オルガノイド培養効率は低下し、オルガノイドの継代培養が行えない問題がある。培養条件を変更することでマトリゲルと同等の培養効率が得られる可能性もあるが、研究結果の信頼性に大きくかかわる部分であり、WNTやgrowth factorの濃度は変更しないことが望ましく、マトリゲルの再供給を待つ必要がある。 その間in vitroで得られた知見を臨床検体を用いて評価を行う。また染色体不安定性にかかわる分子の同定を、胃がんAGS細胞株を用いて評価を行い、予備実験を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
オルガノイド培養系ではWNTシグナルが重要であり、萎縮性胃炎の臨床検体の免疫染色では萎縮性胃炎腺管の底部にWNT3aを発現した細胞が存在する。この細胞はE-cadherin陽性の腺管構成細胞で、萎縮性胃炎においてLGR5陽性細胞のニッチとして機能することが予想される。この細胞の起源についてその他の分化マーカー(MUC6, ペプシノーゲン、シナプトフィジン等)を免疫染色にて確認する。 LATS2ノックアウトによる腸上皮誘導メカニズムとして、BMPシグナルの活性化が重要であると考えられ、特に下流のID3またはID4の関与が示唆された。またRUNX3も既報通りノックアウトすることにより腸上皮化生が誘導された。RUNX3のノックアウトによる腸上皮化生誘導も同様にBMPが関与するかオルガノイドを用いて確認するとともに、腸上皮化生臨床検体においてLATS2とRUNX3のどちらが発現低下しているか、免疫染色による確認を行う。 TP53およびSMAD4のノックアウトオルガノイドをマウス皮下に接種することで造腫瘍性は確認できたが、出来た腫瘍の細胞異型、構造異型は乏しく、悪性化にはさらに別の遺伝子の異常が必要である。腸型胃がんはTCGA分類でCINサブタイプに多く含まれ、コヒーシン複合体の異常が報告されていることから、AGS胃癌細胞株を用いてSTAG1のノックアウトを行ったが、染色体不安定性は確認できなかった。今後AGS細胞株を用いて、コヒーシン複合体を形成するSMC1やSMC3あるいはシュゴシンのノックアウトを行い、染色体不安定性の評価を行うとともに臨床検体におけるタンパク発現、遺伝子変異を確認する。 以上の結果をまとめて萎縮性胃炎におけるWNTシグナルの重要性、腸上皮化生への移行、その後の遺伝子変異による胃癌進展のメカニズムを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
マトリゲルの供給停止に伴い、購入ができなくなったため、次年度使用額が生じた。本年マトリゲルの供給再開に伴い物品の購入に使用する計画である。
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