2022 Fiscal Year Research-status Report
癌促進型分岐点の制御に着目した新規食道癌治療の分子基盤
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21K07971
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
増田 清士 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00457318)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | RNA結合蛋白質 / 食道扁平上皮癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) TIA1遺伝子のスプライシングを制御する因子の同定 これまで癌の発生や進展に関与すると報告のあるスプライシング制御因子をリスト化し、siRNAを用いて各々をノックダウンした細胞でTIA1aとTIA1bの発現量をqPCRおよびウェスタンブロット法を用いて検討した。この結果、TIA1a型スプライシングを促進する蛋白質XとTIA1b型スプライシングを促進する蛋白質Yを同定した。また、TIA1遺伝子のexon 5領域を含むミニジーンで検討した結果、蛋白質Xノックダウン細胞でTIA1a型スプライシングが、蛋白質Yノックダウン細胞でTIA1b型スプライシングが確認された。さらに、蛋白質X特異的抗体を用いて免疫沈降した結果、TIA1 pre-mRNAとの結合が確認された。このことから、蛋白質XがTIA1遺伝子の癌促進型スプライシングを制御する因子であると考えられる。 (2) スプライシング制御因子の発現変動が癌細胞の悪性形質化に与える影響に関する検討 蛋白質Xまたは蛋白質Yノックダウン細胞を用いて検討を行った。蛋白質Xノックダウン細胞では細胞増殖が有意に抑制され、アポトーシスの亢進が確認された。また、スフェロイド形成も有意に抑制された。一方、蛋白質Yノックダウン細胞は予想に反して細胞増殖能の亢進が認められず、やや抑制される傾向が見られた。今後、遊走能や浸潤能について創傷治癒アッセイやボイデンチャンバー法を用いて検討する予定にしている。 以上の結果から、蛋白質XはTIA1遺伝子のスプライシングを癌促進型にスイッチし、TIA1a優位の発現とすることで癌の進展を促進する可能性が示唆された。また、蛋白質XがTIA1aの細胞内機能に対する特異的な介入点の一つであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた「TIA1aの発現制御制御機構の解明」として、TIA1a型スプライシングを誘導する蛋白質Xを特定した。また、蛋白質Xの発現変動により、食道癌細胞の増殖やアポトーシス誘導が変化することを明らかにすることができた。このことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度であり、(1) TIA1aの機能制御点の同定と特異的な介入法の決定と、(2) 介入法の臨床意義、有効性の検証と副作用予測を予定している。 (1) これまでの結果からTIA1aの癌促進機能を制御する候補点を絞り込み、有効な介入法を検討する。介入法の検索は、TIA1a安定強発現細胞株を用いたTIA1aの細胞内局在解析または細胞増殖能解析を用いる。現時点では、介入法の候補としてエクソンスキップ、特異的siRNA、キナーゼ阻害、相互作用するmRNAの作用部位修飾、機能モジュールのハブとなる因子の阻害に加え、ヒンジ領域配列を含む合成ペプチドによる細胞内局在調節性相互作用因子の阻害やスポンジ因子によるTIA1aトラップを予定している。 (2) これまでの検討で得られた結果について公共データベースを用いて、TIA1aと標的分子候補の発現量や分布、変異の有無の相関を調べ、臨床病理学的因子との関連を検討する。また、必要があればESCC臨床検体を用いた免疫組織染色やリアルタイムPCR、次世代シーケンス解析を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) 公共データベース等を用いてスプライシング制御因子の同定として行うことができ、当初予定としていたRNA-seqや質量分析を行う必要がなかった。またTIA1の細胞内機能介入法の一つとして、環状RNAを用いること考えており、予備検討のためRNA-seq解析とバイオインフォマティクス解析を行った。このため「その他(解析委託費)」の 項目で差額が生じた。また前年度に引き続き、コロナ禍の影響もあり、情報収集目的で参加予定であった学会がオンライン開催されたため、旅費に差額が生じた。 (使用計画) 次年度は、アンチセンスオリゴや低分子ペプチドの合成、キナーゼ阻害剤スクリーニング、環状RNAのスクリーニングを行うために、本年度未使用であった助成金と次年度分として請求した助成金を合わせて使用する。
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