2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K08018
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Research Institution | Sasaki Foundation |
Principal Investigator |
中村 真男 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 研究員 (40632972)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | IgM抗体ウエスタンブロット法-質量分析法 / 糖鎖切断型プロテオグリカン探索法 / 細胞接着型プロテオグリカン / 抗体薬耐性克服 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍細胞の細胞表面に存在する糖鎖は、病勢進行や治療効果を反映することから、臨床では腫瘍マーカーとして広く利用されている。近年発がん過程で増加する糖鎖は、腫瘍細胞の薬剤耐性の獲得メカニズムに関わることが報告されており、薬剤耐性を克服する新たな治療戦略として、糖鎖の切断技術の開発が求められている。本研究では、膵がんの治療感受性を高める糖鎖切断酵素および糖鎖脱硫酸化酵素(以下、糖鎖改変酵素と呼ぶ)を腫瘍細胞に選択的に送達する抗体医薬増強薬の開発を目指す。令和5年度は、膵がん細胞の表面に存在するコンドロイチン硫酸(CS)鎖の性状を解析するため、回転式排水補充攪拌法を用いた生化学分析法(CDR-WB)を検討した。この評価系を用いて、ヒト膵がん細胞株とヒト正常膵管上皮細胞株のCS量を比較し、膵がん細胞株では特定のCSサブタイプが増加していることを明らかにした。またCDR-WBと質量分析法(MS)を組み合わせた新規CDR-WB-MS法を用いて、酵素で切断されたCS鎖が細胞接着型プロテオグリカン(adPG)に結合していることを突き止めた。さらに酵素処理で、このadPGの局在が顕著に変化することや、細胞増殖および細胞遊走に関わる下流シグナルの活性が抑制されることを確認した。これと並行して、CS改変酵素を膵がん細胞に送達するためのキャリア抗体を絞り込んだ。令和5年度の研究遂行により、抗体医薬増強薬を作製するために必要なコンポーネントが選定できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、膵がんの治療感受性を高めるCS改変酵素を膵がん細胞に選択的に送達する抗体医薬増強薬の開発を目指している。本年度は、酵素を用いて糖鎖改変したプロテオグリカン(PG)を網羅的に解析できる新規CDR-WB-MS法を開発した。この解析方法を用いて、1)ヒト正常膵管上皮細胞株よりも、膵がん細胞株で特定のCSサブタイプが増加していること、2)酵素処理でCS鎖が切断された細胞接着型PG(adPG)を特定できた。また免疫細胞化学染色法や生化学分析法を用いて、1)CS切断酵素で処理した膵がん細胞株では、adPGの局在が顕著に変化すること、2)その下流シグナル(ERK、AKT)の活性が低下すること等を見出した。 新規ヒト膵がん抗原の探索およびキャリア抗体の作製・探索については、複数の膵がん細胞株および膵がんの手術組織のがん部・非がん部の比較により、7割の症例でがん部に選択的に存在する新規抗原を見出し、この抗原の細胞外領域のアミノ酸配列を決定した。これと並行して、抗体医薬増強薬のプロトタイプを作製するために必要なキャリア抗体の絞り込みを行った。このことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、令和5年度に選定した腫瘍細胞へのキャリア抗体とCS改変酵素を連結した抗体糖鎖改変酵素複合体(AEC)を作製する。免疫細胞化学染色法および生化学的分析法を用いて、膵がん細胞表面のCS鎖がAECの処理で効率的に改変されるかを評価する。令和5年度に特定したadPGは、近年治療用抗体薬の耐性メカニズムに深く関わることが報告されている。そのため、adPG上のCS鎖をAECで切断した際に、抗体薬耐性が克服されるかを近接ライゲーション法および免疫細胞化学染色法による結合試験や、細胞生存試験および細胞遊走試験等で評価する。
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