2021 Fiscal Year Research-status Report
新規抗炎症性アディポカインによる心臓病、腎臓病制御機構の解明
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21K08101
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大橋 浩二 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (10595515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大内 乗有 名古屋大学, 医学系研究科, 特任教授 (00595514)
室原 豊明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90299503)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アディポリン / 虚血性心疾患 / 慢性腎臓病 / 臓器間ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満はメタボリックシンドローム、心血管病、慢性腎臓病の重要な発症基盤である。近年、分泌因子による臓器間ネットワークが注目されており、肥満状態では、脂肪組織の慢性炎症がアディポカインの調節障害を引き起こし、肥満関連疾患の病態を促進することが明らかになってきている。本研究では、我々が同定した新規の抗炎症性アディポカイン、アディポリンの虚血性心疾患、慢性心不全、慢性腎臓病に対する作用について遺伝子改変マウスを用いて個体レベルで明らかにする。その分子機序を細胞レベルでも明らかにする。さらに、アディポリン蛋白投与による治療効果についても解析する。進捗状況としては、アディポリン欠損(APL-KO)マウスと野生型(WT)マウスに心筋梗塞モデルを作製後、4週間後にエコー検査にて心機能評価をしたところ、APL-KOマウスはWTマウスと比較して、左室拡張末期径の増大と左室収縮率の低下を認めた。分子メカニズムとしては、Aktシグナルを介して、心筋細胞のアポトーシスと炎症性応答を抑制することを見出し、2020年にPLoS One誌に報告した。さらにAPL-KOマウスとWTマウスに、慢性腎臓病(CKD)モデルである5/6腎摘出手術を施行し、8週間後に採血、採尿後に解剖し、アディポリンのCKDに対する作用についても解析したところ、APL-KOマウスはWTマウスと比較して、尿中アルブミン排泄と血中尿素窒素(UN)の上昇を認め、組織学的にも間質繊維化の増悪を認めた。アデノウイルスの系を用いてアディポリンの血中濃度を2倍程度に上昇させることにより、CKDモデルにおける尿中アルブミン排泄と血中UN濃度の低下と間質繊維化の改善を認めた。メカニズムに関して、近位尿細管細胞のインフラマソーム上昇をアディポリンがケトン体産生を促進することにより抑制することを見出しており、現在詳細なメカニズムを検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アディポリンの心筋梗塞後の心筋リモデリングに対する作用に関しては、Aktシグナルを介した心筋細胞のアポトーシスと炎症性応答の抑制を介していることを見出し、PLoS One誌に掲載された。慢性腎臓病モデルにおけるアディポリンの作用についても、アディポリン欠損(APL-KO)マウスは野生型(WT)マウスと比較して5/6腎摘手術後の尿中アルブミン排泄、血中尿素窒素が上昇し、組織学的腎障害が増悪することを見出している。またアディポリンを発現するアデノウイルスを静注し、血中濃度を上昇させることにより、腎機能増悪が改善することを見出している。メカニズムに関しては、心筋細胞ではAktシグナルを介しており、当初Aktの関与を解析したが近位尿細管細胞ではアディポリンはAktシグナルを活性化せず、PI3キナーゼ/Aktシグナル阻害薬投与でも、アディポリンによる腎保護作用はリバースせず、現在異なるシグナルを解析中である。近年新規の2型糖尿病薬であるSGLT2阻害薬が、糖尿病性腎症においてケトン体産生を促進することにより、インフラマソームを阻害し、腎保護作用を発揮することが報告された。本研究においてもアディポリンがケトン体(βヒドロキシ酪酸)濃度を増加させてインフラマソームを抑制することを細胞レベルで見出している。さらにケトン体産生の律速酵素であるHMGCS2発現もアディポリン投与で増加し、その上流としてPPARαがHMGCS2を転写レベルで活性化することを細胞レベルで見出している。以上より、アディポリンの心筋梗塞後の心筋リモデリング抑制作用については論文報告済みであり、慢性腎臓病に対する役割も当初の予想とは異なる新規のシグナル解析が順調に進んでいるが、in vivoにおけるアディポリンの慢性腎臓病に対する作用のメカニズム解析が今後必要であり、全体として概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
慢性腎臓病に対するアディポリンの作用に関して、近位尿細管細胞においてPPARα、ケトン体産生によるインフラマソームの抑制により、腎保護作用を発揮することを見出している。今後これらのin vivoにおける解析を進める必要がある。具体的には、PPARα欠損マウスにアデノウイルスの系でアディポリン血中濃度を上昇させた時に、野生型(WT)マウスで見られたアディポリンの腎保護作用がキャンセルされるかを検討する。またインフラマソーム阻害薬であるMCC950を、浸透圧ミニポンプにて持続注入することにより、アディポリン欠損(APL-KO)マウスの腎障害増悪が改善するかを検討する予定である。さらに低糖質、高脂肪による血中ケトン体濃度の上昇により、APL-KOマウスとWTマウスの腎障害が改善するかも検討を予定している。PPARα欠損マウスは、ジャクソンラボラトリーから購入予定である。in vitroの検討としては、現在近位尿細管細胞における作用のみを解析しているが、慢性腎臓病を考える際に、糸球体メサンギウム細胞、たこ足細胞(Podocyte)を用いた検討も必要であり、これらの細胞についても購入を予定している。この段階まで順調に進展した場合は、アディポリンがPPARαを活性化するメカニズムに関しても、未だ同定されていないアディポリン受容体の探索も含め進めていく予定である。さらにアディポリン受容体が同定できた場合は、受容体を活性化する小分子の探索による創薬開発も進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
アディポリンの慢性腎臓病に対する作用に関して、当初想定していたAktシグナルやTGFβ/Smadシグナルを介しておらず、作製を予定していたAkt1欠損マウスやTGFβ受容体IIのfloxマウス作製を中止したことと、新型コロナウイルス感染症の流行もあり、海外、国内ともに学会発表がなく、本年度分の使用がかなり少なくなっています。今回新たにアディポリンはPPARα/ケトン体産生を介したインフラマソーム抑制により慢性腎臓病に防御的に作用することが、近位尿細管細胞を用いたin vitroの検討で明らかになり、今後は新たにジャクソンラボラトリーからのPPARα欠損マウスの購入と、ATCCからのヒトメサンギウム細胞の購入、イギリスのブリストル大学からの腎臓たこ足細胞(Podocyte)の購入を予定しております。In vivoでもインフラマソームがAPL-KOマウスの腎障害増悪に関与するかも、APL-KOマウスにインフラマソーム阻害薬(MCC950)を浸透圧ミニポンプにより持続注入することで解析する予定です。またマウス低糖質、高脂肪食を作製依頼し、血中ケトン体濃度を上昇させる検討も予定しています。また新型コロナウイルス感染症の流行が収まり、国内、海外を含めた移動が可能になってくると考えられ、国内、国際学会への参加も増えることが予想されるため、前年度の差額を繰越、本年度に使用したく存じます。
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