2021 Fiscal Year Research-status Report
脂質代謝異常による喘息重症化機序の解明:難治性喘息への個別化治療の確立を目指して
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21K08197
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森島 祐子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10375511)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 喘息 / アレルギー性気道炎症 / 脂肪酸組成 / 長鎖脂肪酸伸長酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで我々は喘息モデルマウスを用いて、脂肪酸伸長酵素Elongation of very long chain fatty acid family member 6(Elovl6)活性低下が喘息病態にどのような影響を与えるか検証し、1) Elovl6が欠損すると気道・肺組織のミリスチン酸 (C14:0)、パルミチン酸 (C16:0)、パルミトオレイン酸 (C16:1)の割合が増加し、C18以降の長鎖脂肪酸の割合が減少すること、2) Elovl6欠損喘息モデルマウスでは、野生型喘息モデルマウスよりも血清中の抗原特異的IgEやTh2/Th17メディエータが強く誘導されること、3) Elovl6欠損喘息モデルマウスでは、野生型喘息モデルマウスよりも好酸球性気道炎症、好中球性気道炎症が増悪し、杯細胞の増生も顕著になること、を明らかした。しかし、マウスでの事象がヒト喘息の病態を反映したものであるかどうか、さらにはElovl6を介した喘息病態成立の分子細胞生物学的な機序についてはいまだ不明であり、検討を加えた。 まず、ヒト気道組織におけるElovlの発現について、気管支熱形成術を施行予定の重症喘息患者の経気管支生検検体と、他疾患のために肺葉切除を行った非喘息患者の残余検体から気管支組織を採取し、比較した。 さらに、Elovl6活性が脂質プロファイルにどのような影響を及ぼすか検討するため、Elovl6欠損喘息モデルマウスと野生型喘息モデルマウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)についてリピドミクス解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重症喘息患者と非喘息患者の気管支組織におけるElovl 1-7 mRNAの発現をqPCR法で解析したところ、非喘息患者と比較して重症喘息患者ではElovl 3、Elovl 4、Elovl 6 mRNA の発現が有意に低下していた。さらに、これらElovlのなかで脂肪酸合成経路の上流に位置するElovl6について、蛍光免疫組織学的手法でタンパクレベルの発現を解析したところ、qPCR法の結果と同様に、非喘息患者と比較して重症喘息患者でElovl6の発現は有意に低下していた。このことから、Elovl6発現低下がアレルギー性気道炎症の成立・増悪に関連し得ることを示唆していると考えられた。 喘息モデルマウスのBALFを用いた脂質の網羅的解析では、BALFから全549種類の脂質を抽出し、野生型喘息モデルマウスとElovl6欠損喘息モデルマウス間で統計学的に有意差を認めた165種類の脂質を解析した。Elovl6欠損喘息モデルマウスでは野生型喘息モデルマウスと比較して、BALF中のセラミド量が有意に増加し、さらにセラミドの下流代謝産物であるスフィンゴリシン-1-リン酸 (S1P) も増加していることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は脂質の絶対量も考慮にいれたうえで、喘息病態を修飾する脂質の候補を絞り、それらを標的とする介入実験を行う。今年度の検討から、スフィンゴ脂質であるセラミドは気道炎症を増悪させる脂質の候補の一つではないかと推測しているが、セラミドの合成あるいは下流にある脂質メディエータ (S1Pの阻害によってElovl6活性低下に起因する喘息病態悪化が軽快するか検証する予定である。
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