2021 Fiscal Year Research-status Report
新規エピゲノム修飾薬のB細胞リンパ腫に対する奏効予測モデルの確立とその治療応用
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21K08392
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
錦織 桃子 京都大学, 医学研究科, 講師 (60378635)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | B細胞リンパ腫 / EZH2阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
EZH2阻害薬は再発難治性濾胞性リンパ腫に対し2021年に本邦で承認された新規のエピゲノム修飾薬であり、EZH2によって生じるH3K27のトリメチル化を阻害することで、抑制されている標的遺伝子の発現を回復させる作用を持つ。EZH2の活性化型変異陽性症例が治療対象とされるが、変異陽性例は濾胞性リンパ腫全体の2割程度しか存在しないため、適用できる症例は限定的である。その一方、これまでのEZH2阻害薬の臨床試験では、EZH2変異陰性の濾胞性リンパ腫やその他のB細胞リンパ腫病型においても有効な症例が存在することが示されていることから、EZH2阻害薬のEZH2変異に依らない作用機序を解明し、本薬剤の治療対象の拡大を目指すとともに、薬理作用に基づいた最適な使用法を見出すことを本研究の目的とする。 CD58の欠失は悪性リンパ腫における主要な免疫逃避機構の一つであり、T細胞やNK細胞との免疫シナプスの形成不良に関与する。我々はこれまでの研究で、EZH2阻害薬がリンパ腫細胞株においてエピゲノム修飾により抑制されたCD58の発現を回復させることにより、共培養したT細胞やNK細胞の免疫反応を増強する作用を持つことを明らかにした。さらにケモカインであるCCL17の分泌を上昇させることにより、T細胞の動員を促す作用を持つことを見出した。CCL17の分泌促進作用はEZH2変異の有無によらず、また様々なB細胞リンパ腫病型において普遍的に認められる作用であることが研究結果から示唆されている。現在EZH2阻害薬によって生じる遺伝子発現変化を網羅的に解析し、主にその免疫環境改変作用による治療的意義に着目し研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
B細胞リンパ腫11細胞株を用いて、EZH2阻害薬によって生じる遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析、RNAシークエンス、定量RT-PCR法を用いて絞り込んだところ、全ての細胞株でCCL17の発現・分泌が上昇することが判明した。B細胞リンパ腫から分泌されるCCL17は抗腫瘍免疫を担うT細胞の動員を促す作用を持つことが、リンパ腫細胞株および初代培養B細胞リンパ腫を用いた細胞遊走実験で示された(Yuan et al. Cancer Science 2021;112:4604-4616)。CCL17発現誘導作用は、濾胞性リンパ腫株などのEZH2の活性が生理的に高い胚中心B細胞が起源のリンパ腫で特に顕著であった。 現在、EZH2阻害薬がB細胞リンパ腫においてNK細胞やT細胞の反応性に関わる別の分子の発現を上昇させることに着目し、その免疫細胞に与える影響につき精査を進めている。また、EZH2阻害薬はこれら以外にも特徴的な液性因子の一群の発現を誘導し、B細胞リンパ腫の腫瘍微小環境をある決まったパターンに変化させる作用を持つことが示唆された。ホジキンリンパ腫は免疫細胞の豊富な微小環境を持つ腫瘍であるが、CCL17はホジキンリンパ腫の腫瘍細胞であるHodgkin/Reed-Sternberg(H/RS)細胞で特徴的に高発現が知られ、B細胞リンパ腫におけるEZH2阻害薬処理により誘導される遺伝子群と、H/RS細胞で高発現が報告されている遺伝子群の相関を比較したところ、有意な相関がみられることがGene set enrichment analysis (GSEA)により示された。すなわち、これらの病型の違いの一端はエピゲノム修飾によってもたらされていることが推測される。
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Strategy for Future Research Activity |
濾胞性リンパ腫とホジキンリンパ腫はともに胚中心B細胞が起源の腫瘍であると考えられているが、これまで何がこれらの病態の違いを生み出しているのかは明らかにされていなかった。濾胞性リンパ腫細胞に対しEZH2阻害薬を使用すると、免疫細胞の遊走や活性化をもたらす遺伝子の発現が上昇するが、その遺伝子群とホジキンリンパ腫で特徴的に高発現する遺伝子群との間に相関が認められたことから、エピゲノム修飾の違いが異なるリンパ腫病型の形成に関与している可能性があると考えられた。ホジキンリンパ腫のエピゲノム修飾状態に関与すると考えられる因子としては、ホジキンリンパ腫で頻度の高い9p24.1増幅の領域内に存在するヒストン脱メチル化酵素KDM4Cの高発現と、EBウィルス感染によるLMP1蛋白によるH3K27脱メチル化作用が推測される。そこで、濾胞性リンパ腫細胞株に対するEZH2阻害薬処理とLMP1蛋白導入によって生じる遺伝子発現変化の異同を比較し、さらにホジキンリンパ腫細胞株においてKDM4Cの発現を抑制した場合に変化する遺伝子群についても比較を行う。これらのエピゲノム修飾によって共通する遺伝子群が標的となっていることを示すことで、これらのリンパ腫病型がエピゲノム修飾の違いを背景に成立していることが明らかにできる可能性がある。各病型のエピゲノム修飾機構を詳細に調べることで、エピゲノム修飾薬により治療効果を正確に予測したり、異なる病型の治療薬も活用できるようになることが期待される。
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Causes of Carryover |
残額が必要な試薬を購入するには少額であるため、次年度に繰り越させて頂きました。 必要な試薬購入に使用させて頂く予定です。
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Research Products
(3 results)