2022 Fiscal Year Research-status Report
骨と骨髄の発生における未分化間葉系細胞の分化運命決定機序の解析
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21K08417
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
住谷 瑛理子 東京大学, 医学部附属病院, 特別研究員 (50724754)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 骨髄ストローマ細胞 / 骨髄発生 / RANKL |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の主要な造血の場である骨髄を構成する骨髄ストローマ細胞は、造血幹細胞の維持に働く細胞集団であることが知られているが、発生学的な出自については十分に解明されていない。本研究は胎児期に出現する最初期の骨髄ストローマ細胞の起源と分化系譜を解析することで骨髄造血環境が構築される機序の解明を目指す。これまでの研究において胎齢15日(E15)のマウス胎仔軟骨膜に局在するRANKL発現細胞(E15-RANKL陽性細胞)を見出し、この細胞が発生の進行に伴いOsx陽性骨芽細胞やLepR陽性骨髄ストローマ細胞を含む複数の間葉系細胞種に分化する未分化な細胞であることを明らかにした。そこでこの未分化細胞の性状を知るために、E15-RANKL陽性細胞を一細胞RNA-seq法により解析したところ、E15-RANKL陽性細胞は「骨芽細胞様の幼若細胞」「骨髄ストローマ細胞様の幼若細胞」など5種類のクラスターに大別できることが分かった。この結果はE15-RANKL陽性細胞がすでに分化の方向性が定まった細胞集団であることを示唆する。一方、E15-RANKL陽性細胞の中にはRANKLを高発現する細胞集団が存在することが分かった。このRANKL高発現細胞は細胞外基質の分解に関わるMMP類を産生すること、軟骨と骨髄の境界に局在すること、膜タンパク質Xを特異的に発現することが明らかになった。またX発現細胞特異的にRANKLを欠損したマウスでは、E15において破骨細胞や一次骨化中心の形成遅延がみられた。本研究により胎仔の骨髄ストローマ細胞前駆細胞や骨髄の発生に寄与するRANKL高発現細胞を新たに見出した。今後、これらの幼若細胞と分化の進んだ骨髄ストローマ細胞の系譜関係、分化の分子メカニズムや造血への寄与を明らかにすることで骨髄発生に関する基盤的知見を得ることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究においてRANKL発現細胞を時期特異的に蛍光タンパク質tdTomatoで標識することができるマウスの解析を行い、胎齢15日の骨原基にRANKL発現細胞(E15-RANKL陽性細胞)が出現することおよびE15-RANKL陽性細胞が出生時までに骨髄ストローマ細胞や骨芽細胞など複数の間葉系細胞種に分化することを明らかにしてきた。 本年度は、まず前年度に実施したE15-RANKL陽性細胞の一細胞遺伝子発現解析(scRNA-seq)の結果を詳しく解析し、骨髄ストローマ細胞や骨芽細胞への分化能を有する未分化細胞の性状を明らかにすることを試みた。解析の結果、E15-RANKL陽性細胞は軟骨膜細胞、骨芽細胞、幼若骨芽細胞、幼若骨髄ストローマ細胞、RANKL高発現細胞の5つのクラスターに分かれた。このことからE15-RANKL陽性細胞は骨芽細胞/骨髄ストローマ細胞の共通前駆細胞ではなく、すでに細胞運命が定まった幼若細胞の集まりであることが示唆された。一方、E15-RANKL陽性細胞のうちRANKL高発現を特徴とする細胞集団の遺伝子発現プロファイルを調べたところ、破骨細胞誘導に必須のRANKLおよびCSF1、軟骨基質等の分解に関わるMMPs、膜タンパク質Xなどを特異的に発現することが明らかになった。また、胎仔の骨の組織学的解析から、X発現細胞が軟骨と骨髄の境界面に局在することがわかった。さらにX発現細胞特異的にRANKLを欠損するマウスを作出し、胎仔期の骨を調べたところ、E15において破骨細胞形成が障害され一次骨化中心の形成が遅延することが明らかになった。以上の結果から、E15の骨原基には骨芽細胞の他、骨髄ストローマ細胞の上流細胞にあたると考えられる幼若骨髄ストローマ細胞や、破骨細胞誘導や軟骨分解を介して骨髄の形成を促進するRANKL高発現細胞などが存在することが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのscRNA-seq解析やRANKL fate-mappingマウスを用いた解析から、E15-RANKL陽性細胞の中に骨髄ストローマ細胞(BMSCs)の前駆細胞にあたると考えられる幼若BMSCs(E15-BMSCs)が存在することが分かった。そこで今後はまず既に取得しているscRNA-seqデータの再解析を行い、E15-BMSCsを特徴づけるマーカー遺伝子を探索するとともに、分化や機能を説明する分子メカニズムを推定するためのパスウェイ解析を行う。E15-BMSCsのマーカー遺伝子や候補となるパスウェイを同定することができたら、培養細胞や遺伝子改変マウスを用いた検証を行う。 一方これまでの実験結果から、E15-BMSCsはRANKLをほとんど発現していないが、分化が進んだ新生仔のBMSCsはRANKLを発現するということを見出している。そこで、分化したBMSCsが発現するRANKLの生理的意義をLepR-Cre; RANKL flox/floxマウスを用いて調べること計画している。また分化の進行に伴ってBMSCsに特徴的な遺伝子発現が獲得される仕組みを明らかにするために幼若期および分化後のBMSCsに対するATAC-seq解析を行い、特有のオープンクロマチン領域を調べることで骨髄ストローマ細胞への分化や機能に関連する可能性のあるDNA領域や当該領域に含まれる転写因子結合配列を明らかにする。特にLepR、CXCL12、SCFなどのBMSCマーカー遺伝子やRANKL遺伝子の周辺領域を中心に解析することで、骨髄ストローマ細胞への分化や機能を司る遺伝子発現のメカニズムを探る。
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Causes of Carryover |
年度途中に研究機関を異動したことに伴い一時実験を中断した期間があり、未使用が生じた。繰越金(\6,147)は次年度の実験に使用する消耗物品の購入にあてる予定である。
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