2021 Fiscal Year Research-status Report
リアルタイム真菌種同定方法の開発とクリニカルメタゲノミクスへの応用
Project/Area Number |
21K08505
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
元岡 大祐 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (10636830)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 真菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、感染症が疑われる臨床検体からの網羅的病原体探索法として、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析が用いられつつある。しかし、臨床検体中に含まれる核酸のうち病原体由来のものは、多くの場合0.1%以下であるため、感度向上、低コスト化や解析の高速化が達成できていない。また、メタゲノム解析における病原体同定は、ゲノムデータベースに依存した解析手法であるため、ゲノムデータベースに情報が少ない真菌の正確な同定が難しい。真菌感染症は、皮膚のみならず、免疫低下時の呼吸器感染症などで重篤な疾患を引き起こす。真菌感染の検査は、菌体数はβ-D-グルカンの定量によって推定され、その真菌種の同定は、単離培養後の形態観察や、あらゆる真菌が共通してもつ配列(rRNA)の一部であるITS領域などのシーケンスによって行われている。しかし、これらの手法により同一種であると認識されている真菌の中に病原性が異なる真菌が存在することも知られており、より正確かつ簡便に真菌を同定できる方法が必要である。そこで本研究では、rRNAの全長をターゲットにすることでより高分解能な真菌の種同定方法を構築することを目的とした。具体的には、CRISPR/Cas9システムのゲノムの特定配列を切断する機能を用いて、真菌ゲノムのrRNA領域を切り出し、リアルタイムに長鎖のシーケンスが可能であるNanoporeシーケンサーと組み合わせることで、真菌ゲノム全体を解析することなく、選択的に種同定に必要な配列のみをシーケンスする方法を検討する。本年度は、CRISPR/Cas9システムに利用する全真菌に共通した配列を探索し、複数の培養真菌を用いて、目的配列のみが選択的にシーケンスされるかを評価した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、CRISPR/Cas9システムが認識する配列として、全真菌に共通した配列の探索を行った。その際、切り出してきた配列内に種に特徴的な配列を持つ必要があるため、18Sと25Sの間の領域を含むようし、rRNA全長が切り出されるようにデザインした。塩基配列の保存度から18S rRNA領域に2つ、25S rRNA領域に3つの共通配列(gRNA)を選定した。S. cerevisiaeを用いて、各gRNAの特異度を評価した。具体的には、培養株より取得したゲノムDNAに対して、デザインしておいた共通配列を用いたCRISPR/Cas9システムを実施した後、Nanoporeシーケンサーを用いた方法によりrRNA領域選択的な長鎖シーケンスを実施し、約9 kbpの全長を解読することに成功した。次に他の真菌へのこれら手法の適用性を調べるために、Rhodotorula mucilaginosa、Rhizopus microsporus、Acremonium alternatum、Penicillium citrinum、Lichtheimia corymbifera、Candida glabrataなどの様々な種をバイオリソースより取り寄せ、同様にrRNA特異的シーケンスを行った。いずれもrRNA全長の配列を得ることに成功し、S. cerevisiae以外の真菌においても有効であることを確認した。また取得したそれぞれの真菌のrRNA全長配列を比較すると、現在真菌の分類に一般的に用いられているrRNA領域の一部であるITS領域の配列のみならず、18S領域や25S領域に含まれる一部の配列や、それ以外の領域においても違いがみられ、種特異的な配列認識ができることを確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの取り組みにより単離培養された真菌から、種の同定に必要なrRNA領域の選択的シーケンスができることを確認してきた。一方で、シーケンスされた配列の生物種をアノテーションするためには、より多くの真菌の全ゲノムもしくはrRNAの配列に対するデータベースが必要である。しかしながら、今回取得したrRNA全長配列のアノテーションを実際に行ったところ、データベース側の情報が少なく、あったとしてもrRNAの一部である18S領域、25S領域、あるいはITS領域といった配列しか登録されていないものが多く見られた。データベースの拡充は、本研究で構築している真菌rRNA特異的シーケンスを行っていくことでも可能である。しかし、膨大な数の真菌種すべてのシーケンスすることは費用面でも作業時間としても困難である。ショートリードシーケンサーを使った真菌の全ゲノムデータは、公共データベースに多くアップロードされており、今後はこれらのデータからアセンブリを行い、真菌rRNAデータベースを構築することを目指す。rRNA領域は、ゲノム中に複数コピー存在し、また配列内にタンデムリピートとなる配列を含むことが多いことに起因し、既存のアセンブラーを使って全長配列を構築することは難しい。そこで真菌rRNAデータベースを作成するための第一歩として、rRNAのアセンブルに特化したアセンブラーの開発を目指す。次年度は、真菌rRNA配列のアセンブラーを開発した後、今回単離培養した真菌からショートリードシーケンスデータを取得し、アセンブラーの評価を行う予定である。また公共データベースに多くアップロードされたショートリードシーケンスデータからデータベース拡充に使用するデータの選別および取得にも取り組む。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、参加予定の学会のキャンセルや研究活動の停滞化を余儀なくされた。本年度実施予定であった、多種の真菌のrRNA解析については、次年度以降に実施する予定である。
|
Research Products
(3 results)