2021 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病膵β細胞糖代謝変換における一次繊毛ヘッジホッグシグナルの重要性
Project/Area Number |
21K08537
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
向 英里 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (60362539)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | β細胞 / グルコース代謝 / ヘッジホッグシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
膵β細胞からのインスリン分泌には細胞内グルコース代謝が重要であり、ATP産生障害はインスリン分泌不全を引き起こす。申請者らは以前、糖尿病のβ細胞ではチロシンキナーゼSrcの活性化によりグルコース刺激による活性酸素種(ROS)産生が増加しATP産生が低下すること、また糖尿病の慢性状態では乳酸産生が亢進しており、がん細胞でみられるWarburg効果が生じていることを明らかにした。一方、一次繊毛におけるヘッジホッグ(Hh)シグナルは発生や分化に重要なシグナルであるが、従来のcanonical signalingに加えて、近年遺伝子発現を介さないnon-canonical signalingの存在が示されており、Srcファミリーキナーゼの活性化やWarburg代謝をもたらすことが知られている。本研究では、Hhシグナルの膵β細胞における糖尿病でのグルコース代謝変換に対する関与を検討し、糖尿病発症における新たな代謝障害分子メカニズムを明らかにする。Hhシグナル刺激薬による膵β細胞株MIN6細胞からのインスリン分泌を検討したところ、シグナル活性化によりグルコース応答性インスリン分泌は有意に増強された。Hhシグナルのnon-canonical signalingの下流因子についてSrcの関与を検討したところ、Hfシグナル活性化によるSrc活性の変化は見られなかった。したがってSrcの関与は低いと考え、次にnon-canonical signalingの別の下流因子として知られているAMPKの関与を検討したところ、Hhシグナル活性化によりAMPKのリン酸化が増加した。これらのことから、Hhシグナルnon-canonicl signalingの活性化はAMPKを介してインスリン分泌の増強を引き起こすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、膵β細胞における正常と糖尿病状態でのグルコース代謝の違いについて、Hhシグナルの関与や一次繊毛との関係を検討し、糖尿病発症における代謝制御変換の基盤分子メカニズムを明らかにする。まず、糖尿病での膵β細胞グルコース代謝変換に対するHhシグナルの関与に関する検討を行った。膵β細胞株MIN6細胞からのインスリン分泌に対するHhシグナルの効果を検討するためにactivatorであるpurmorphamineにより刺激したところ、グルコース応答性インスリン分泌は有意に増強された。また、inhibitorであるcyclopamineによる刺激においてもインスリン分泌は有意に増強された。Cyclopamineはnon-canonical signalingにおいてはpartial agonistとして作用する性質をもつことから、Hhシグナル活性化がインスリン分泌を増強することが示された。次に、non-canonical signalingの下流因子についてSrcの関与を明らかにするために、Src活性に対するHhシグナル活性化の効果を検討したところ、Src活性に変化は見られなかったことからSrcの関与は低いことが示された。脂肪細胞や筋細胞では、Hhシグナルnon-canonical signalingが刺激されると、細胞内へのCa2+流入が生じ、最終的にAMPKがリン酸化されることが示されている。そこで、AMPKの活性化を検討したところ、Hhシグナル活性化によりAMPKのリン酸化の増加が認められた。以上のことから、Hhシグナルnon-canonical signalingの活性化はAMPKを介してインスリン分泌の増強をもたらすことが明らかとなった。初年度の研究計画に準じて進めており、おおむね順調と考えらえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の検討により、Hhシグナルの活性化はインスリン分泌を増強すること、またそれらはSrcではなくAMPKを介していることが示された。今後は、さらなる分子メカニズムを検討するためにAMPKの上流および下流のシグナル因子について検討し、シグナルメカニズムを明らかにする。また、ATP産生、乳酸産生、ROS産生についても検討し、インスリン分泌に対する関与について明らかにする。Hhシグナルと一次繊毛との関係について、一次繊毛関連因子であるBbs4やIft88、Kif3a、Odf1などを遺伝的にノックダウンしたときにHhシグナル因子がどう変化するか、さらにはグルコース代謝やインスリン分泌機構に対する変化を検討することで、膵β細胞におけるHhシグナルと一次繊毛の関係性について明らかにする。また、Warburg効果では解答系律速酵素ピルビン酸キナーゼが中心的役割を果たすが、膵β細胞における糖尿病でのグルコース代謝スイッチングにこの酵素が関与しているか、またそれらに対してHhシグナルが関与しているかを明らかにする予定である。このように、当初の研究実施計画通りに進める予定である。
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Research Products
(9 results)