2021 Fiscal Year Research-status Report
血管内皮障害による炎症性腸疾患の病態制御機構の解明
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21K08692
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
長田 太郎 順天堂大学, 医学部, 教授 (00338336)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 浩一 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任先任准教授 (10360116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 小腸大腸肛門外科学 / 下部消化管学 / 炎症性腸疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者らは、神戸学院大学薬学部との共同研究で、従来、止血剤として開発されているプラスミンの活性中心に作用する新しいプラスミン阻害剤、抗血液線維素溶解系(線溶系)因子阻害剤YO-2をドラッグリポジショニングの形で転用し、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、マクロファージ活性化症候群(血球貪食症候群:MAS)等のサイトカインストーム症候群、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)の疾患モデルとその対照群に投与したところ、疾患モデル群の生存率を有意に改善することに成功した。IBDは、TNF-α関連慢性炎症性疾患に位置付けられ、TNF-αを標的分子とした生物製剤が日常臨床に普及しているが、現在多くのその他のサイトカインの病態形成上の重要性も判明しており、CD40-ligandやOX40-ligandの抗体が臨床試験に入っている。これらの因子もTNFスーパーファミリーに属し、いずれもマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)による細胞外ドメイン分泌によって、膜型から可溶型へと切断され、血中に放出されるが、線溶系因子プラスミンが、MMP相互活性化を上方制御することが判明している。IBD疾患モデルで、内皮由来の組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)、そしてプラスミンα2アンチプラスミン複合体(PAP)濃度の増加が症状表出に先立って認められたことは、血管内皮障害・機能異常で、内皮に発現し、産生が増加するアンジオクライン因子を通じ、IBDの重症化、病勢が制御されているとの研究者らの仮説を裏付ける結果が得られた。さらに、薬剤やsiRNA等による免疫系の抑制が、MMPや線溶系酵素活性を有意に阻害することも確認したことから、これまで長く不明だったIBDの重要な合併症である静脈血栓症の発生機序や、サイトカイン分泌症候群の一面を有するIBD病態の詳細が解明されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、研究者らは、F1ハイブリッドの移植片対宿主病(GVHD)の疾患モデルにおいて、その病態形成に重要と考えられるCD40をsiRNAとβグルカンとの複合体によってノックダウンし、CD40/CD40-ligandシグナルを阻害することにより、サイトカインストームの発生とGVHDの標的臓器病変の形成を抑制し、生存率を改善することに成功した。CD40-ligandは、TNF-αと同様、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によって細胞外ドメイン分泌されるII型膜貫通の (TNF)スーパーファミリーに属する因子であり、T細胞表面に発現し、マクロファージや樹状細胞に発現するCD40との特異的結合を通じ、B細胞の活性化と増殖シグナルを伝達するとされ、クローン病や潰瘍性大腸炎の病態形成にも関与していることが報告されている。またCD40は血管内皮細胞に発現しているアンジオクライン因子であることも判明しており、CD40-ligandとの結合により内皮が活性化され、さらなるアンジオクライン因子の産生と分泌のトリガーとなって、血液凝固・線維素溶解系(線溶系)の亢進にも関与することが解っている。IBDの新規治療法として、抗CD40-ligand抗体の臨床試験が既に始まっている。研究者らは、siRNAにより内皮に発現したCD40を直接的に阻害し、血管内皮機能を制御することにより、サイトカインストーム症候群の病勢を抑制することが可能であること、また血管内皮障害・機能異常によって誘導されるCD40に代表されるアンジオクライン因子の産生と分泌が、IBDの重症化、病勢にも関与し、こうした血中アンジオクライン因子と炎症性サイトカインの均衡が、IBD病態の背景に存在する可能性を示唆した。研究仮説の検証に、この論文は大いに寄与していることから、現時点で、本研究の進捗状況は、至極順調であると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、研究者らは、今年度のGVHD モデルでの研究成果に着想を得て、現在、IBDの疾患モデルを使用し、CD40をsiRNAとβグルカンとの複合体によってノックダウンすることにより、CD40/CD40-ligand シグナル阻害によるIBD病態、病勢への影響を精査中である。IBD疾患モデル作成後、経時的な生存率、顕性症状を記録し、末梢血を含む各種臓器・組織を採取し、病理切片を作製、アンジオクライン因子による免疫特殊染色、in situ hybridizationによる、病変中に形成されるであろう血管ニッチの細胞・組織構成の解明を進めている。また残された期間で、大腸病変、末梢血中の細胞ソーティングによって採取した血管内皮系細胞、その長期培養系により包括的遺伝子発現を含む性状解析、またこの過程において血管内皮を仲介としたT細胞、マクロファージ、樹状細胞、さらに間葉系細胞等の各系統細胞間の相互作用の解明を行う予定である。加えてヒト凍結血漿中の炎症性サイトカイン、凝固・線溶系因子を含むアンジオクライン因子濃度、活性測定についても既に開始した。特に 研究者らは、数種のMMPと線溶系因子の血中濃度・活性、便中濃度・活性に注目しているが、これらが、病勢や急性増悪、また特にIBDの予後に関わる発癌やその他の合併症の病態とリンクしたバイオマーカーとなり得ることを期待している。 これらと並行して、論文投稿を視野に入れ、患者情報と疾患モデルとのデータ照合をTR的な観点から適宜行っており、現在、GVHDやCOVID-19等、一部のサイトカインストーム症候群について、ヒト臨床データを中心にまとめた先行論文を投稿中であり、そのレビューを参考に、研究計画も適宜改善していきたい。最終的にIBD急性増悪、病勢変化の予見、その早期診断に有用なアンジオクライン因子を絞り込んでいく方針に変更はない。
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Causes of Carryover |
本研究では、IBD患者からの臨床検体を用いたIBDが併発する凝固・線溶系の異常、腸管病変の形成、さらにはアンジオクライン分子を標的とした新しい炎症抑制、補助療法の開発を目指しており、検体についてはある程度集積した段階で、まとめて測定する形になるため、前年度より検体集積が遅れた分も持ち越しと、2020年初頭からコロナウィルスの影響を受け、臨床、基礎両部門の活動が滞った分、次年度での測定量が増えている。しかしながら、今年度より全学的な研究連携体制も整ったこともあり、今後は、検体集積の増加が見込まれることから、大筋の研究計画自体には変更は無く、次年度使用額のみが生じている状況である。
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Research Products
(14 results)
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[Presentation] クローン病におけるブデソニド腸溶性徐放製剤使用例からみた有用性の検討2022
Author(s)
矢野慎太郎, 石野博崇, 松下瑞季, 山内友愛, 磯野峻輔, 大川博基, 中津洋一, 西慎二郎, 深見久美子, 野元勇佑, 荻原伸悟, 岩本志穂, 降籏誠, 北村庸雄, 長田太郎
Organizer
第18回日本消化管学会学術集会
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[Presentation] 直近4年におけるクローン病の初回治療から寛解までの臨床経過に関する検討2021
Author(s)
矢野慎太郎, 神保泰久, 牛尾真子, 磯野峻輔, 大川博基, 中津洋一, 西慎二郎, 深見久美子, 野元勇佑, 荻原伸悟, 降籏誠, 岩本志穗, 北村庸雄, 長田太郎
Organizer
第29回日本消化器関連学会週間
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[Presentation] 潰瘍性大腸炎患者の発症年齢による初回治療から寛解までの臨床経過に関する検討2021
Author(s)
矢野慎太郎, 牛尾真子, 磯野峻輔, 大川博基, 多田昌弘, 中津洋一, 西慎二郎, 深見久美子, 野元勇佑, 荻原伸悟, 降籏誠, 岩本志穗, 北村庸雄, 長田太郎
Organizer
第107回 日本消化器病学会総会
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