2022 Fiscal Year Research-status Report
血管内皮障害による炎症性腸疾患の病態制御機構の解明
Project/Area Number |
21K08692
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
長田 太郎 順天堂大学, 医学部, 教授 (00338336)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 浩一 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任先任准教授 (10360116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 小腸大腸肛門外科学 / 下部消化管学 / 細胞・組織、生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、難治性の慢性炎症性疾患である炎症性腸疾患(IBD)における、特に腸管臓器特異的血管内皮の性状とその機能、血管内皮障害に伴う内皮由来のアンジオクライン因子の動態解析、また血管内皮細胞内の転写因子を介した炎症性サイトカイン、ケモカインの産生、また他系統細胞、造血系や間葉系細胞等との相互作用を包括したIBD病態、疾患活動性の制御機構の解明を主な目的としている。今年度の研究で、代表者らは、主にIBDに対する顆粒球単球吸着療法の有効性とその機序解析を患者検体を中心に進めた。代表者らは、主に好中球やマクロファージ等から産生される、炎症性サイトカインの細胞外ドメイン分泌を制御する、血管基底膜を基質とするマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)の活性が、血中の炎症性サイトカイン濃度やIBDの活動性や重症度を反映、さらには治療効果、有効性とも一定の関連性のあるバイオマーカーの候補となることを示唆し、学会発表に至った。さらにMMP-9を含む可溶型MMPの多くは、相互活性化システムの上方から、血液凝固・線維素溶解系(線溶系)因子で、セリンプロテアーゼ群に属するプラスミノーゲン(Plg)/プラスミン(Pm)系により、活性を上方制御されていること、従って血管内皮より分泌されるアンジオクライン因子の一つである組織型Plgアクチベータ(tPA)が、線溶系とMMPを活性化することから、IBD病態制御の起点として、重症化にも深く関与している可能性も示唆した。加えて今年度、代表者らは、消化管の一部で、COVID-19の病原体である新型コロナウィルス(SARS-Co-V2)の侵入門戸でもある口腔内で、ウィルスの血管内皮感染によって形成される微小血栓が、血管内皮障害・機能異常を誘導し、Plg/Pm系の活性化を通じて、多くのサイトカインストーム症候群の病態形成の起点となっているとの仮説を提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までに代表者らは、体外循環回路中にカラムを使用し、末梢血から好中球やマクロファージを吸着除去する顆粒球単球吸着除去療法(GMA)で、現在加療中の炎症性腸疾患(IBD)の患者検体を集積し、治療前後でのマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)、プラスミノーゲン、α2プラスミンインヒビター・プラスミン複合体の血中濃度を測定し、臨床症状や他の生化学データや炎症マーカーとMMP-9活性および血液凝固・線維素溶解系(線溶系)への影響について検討した。GMA治療において、治療効果のある症例ではMMP-9の活性は安定し、治療前の値よりも低下する傾向を確認している。体外循環療法直前直後の比較でMMP-9の値は、治療直後に有意な上昇を認め、プラスミノーゲンはGMA直後から減少しPICは増加する傾向を認めた。このことはプラスミノーゲンが活性化され、プラスミン生成が進み、MMP-9が活性化され、さらにカラムに活性化された白血球の吸着により、血中のMMP-9は上昇、さらに内皮障害と体外循環に伴う血管内皮に対する物理学的、ないしは生理学的ストレスも関与し、線溶系は亢進、アンジオクライン因子濃度が増加するものと考えられた。またGMAの終了時、カラム後の位置で、MMP-9の上昇傾向を認め、MMP-9は白血球の吸着効果を示すマーカーになることも示唆された。また今年度までに代表者らは、疾患モデル生物と臨床検体の両方でCOVID-19、移植片対宿主病、悪性黒色腫等の疾患において、血管内皮障害・機能異常によって誘導される凝固・線溶系因子やCD40を含むアンジオクライン因子が、サイトカインストーム症候群の発生を予測するバイオマーカーの候補となるとの仮説の検証に寄与する研究発表、論文報告がなされており、現時点で、本研究の進捗状況は、至極順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究成果の考察から腸管臓器特異的血管内皮の性状変化、機能異常が、IBD病態形成の起点となっているとの仮説に基づき、疾患モデル生物の作製、そしてIBD患者の臨床検体の集積の両面から、未病、発症、遷延化、不可逆化へと連続的にIBDが進行する過程における末梢血中のアンジオクライン因子、そして病変中の血管内皮を中心とした組織微小環境―血管ニッチの細胞・組織構成、細胞性状、各種細胞の包括的遺伝子発現等のモニタリングを施行し、これらを定量的・定性的な情報として収集・統合する方針にシフトしていきたい。具体的には、IBDの疾患モデル生物ないしはEx vivo系を作製し、各種臓器・組織を経時的に採取し、フローサイトメーターによる細胞構成、さらにソーティングによる腸管組織特異的血管内皮細胞の性状、機能、他系統細胞との相互作用、細胞の遺伝子発現解析、アンジオクライン因子による免疫特殊染色、in situ hybridizationによる「血管ニッチ」の構成分子を解析する。各種アンジオクライン因子の遺伝子ノックダウン、改変マウスと対照群に、疾患モデルを作製し、凝固・線溶阻害剤、抗菌薬、そして患者の生活様式、環境、遺伝的背景を反映したアプローチとして糞便移植群を作製する。これらの各種臓器・組織を経時的に採取し、その細胞構成、臓器特異的血管内皮細胞の性状、機能、遺伝子発現解析、ニッチ構成等を解明する。またIBD患者からの、患者情報を記録し、患者検体については、血中、便中のアンジオクライン因子測定の他、末梢血、腸管組織中のフローサイトメーターによる細胞構成、腸管臓器組織特異的血管内皮細胞の性状、機能、包括的遺伝子解析に加え、患者と動物実験データとの照合とを通じ、トランスレーショナルリサーチ(TR)、リバースTRの手法で情報、データについて、AIによる統合解析を進める。以上が、今後の推進方策となる。
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Causes of Carryover |
原因の一つとして、コロナ禍の為学会参加が制限され多くがWebでの参加・発表となったためである。また、本研究は患者からの臨床検体を用いることにより、IBDが併発する凝固・線溶系の異常、腸管病変の形成、さらにはアンジオクライン分子を標的とした新しい炎症抑制、補助療法の開発を目指しており、臨床検体についてはある程度集積した段階で、まとめて測定する形になるため、一昨年度より検体集積が遅れた分も今後測定していくことになる。2020年初頭からコロナウィルスの影響を受け、臨床、基礎両部門の活動が滞った分、次年度での測定量は増えている。大筋の研究計画自体には変更は無く、次年度使用額のみが生じている状況である。
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[Presentation] 潰瘍性大腸炎治療における生物製剤使用例と非使用例におけるトファシチニブの有効性に関する検討2022
Author(s)
矢野慎太郎, 生駒一平, 北澤詩子, 神保泰久, 大川博基, 中津洋一, 西 慎二郎, 深見 久美子, 野元勇佑, 荻原伸悟, 降旗誠, 北村庸雄, 長田太郎
Organizer
第30回日本消化器関連学会週間
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[Presentation] 潰瘍性大腸炎患者に対するウステキヌマブ使用例に関する検討2022
Author(s)
6.矢野慎太郎, 松下瑞季, 山内友愛, 磯野峻輔, 大川博基, 中津洋一, 西 慎二郎, 深見久美子, 野元勇佑, 荻原伸悟, 降旗 誠, 北村庸雄, 長田太郎
Organizer
第108回 日本消化器病学会総会
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[Presentation] 潰瘍性大腸炎に対するベドリズマブの長期有効性と評価ポイントの検討2022
Author(s)
7.芳賀慶一, 澁谷智義, 長田太郎, 福生有華, 浅岡大介, 山田俊夫, 小林 修, 佐藤俊輔, 伊藤顕太郎, 野村 慧, 秡川真由子, 野村 収, 石川大, 永原章仁
Organizer
第108回 日本消化器病学会総会