2022 Fiscal Year Research-status Report
膵内分泌腫瘍モデルマウスを用いたアミノ酸代謝異常を介した発がん機構の解明
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21K08705
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
堀 美香 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (60598043)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
筆宝 義隆 千葉県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 研究所長 (30359632)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 膵内分泌腫瘍 / 肝転移 / グルカゴン / α細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで雄のグルカゴン遺伝子欠損(Gcggfp/gfp)マウスの膵内分泌腫瘍 (panNET) について解析を行ってきたが、雌雄差を調べるために、今年度は雌のGcggfp/gfp,マウスについて解析を行った。12ヵ月齢の雌のGcggfp/gfp, (n=22) 及びコントロール(Gcggfp/+, n=13)マウスを解剖した。解剖時に、全てのGcggfp/gfpマウスにおいて、panNETの発生を認めたが、肝転移巣は認められなかった。また、Gcggfp/gfp,マウスの膵臓及び肝臓について蛍光実体顕微鏡で観察したところ、全てのマウスにおいて、膵臓に加え、肝臓においてもGFP陽性細胞がびまん性に確認された。免疫組織化学的解析から、Gcggfp/gfp 及びGcggfp/+ マウスにおいて、膵島のα細胞はGFP、Chromogranin A、Synaptophysin陽性であり、panNET においてもGFP、Chromogranin A、Synaptophysinは陽性であった。一方で、蛍光実体顕微鏡でGFP陽性細胞が観察されたGcggfp/gfpマウスの肝臓組織切片では、Chromogranin A及びSynaptophysin陽性部位は、GFP 陽性部位に比較して非常に少なかった。一部のGFP陽性細胞は膵内分泌細胞の性質を持たない可能性がある。また、panNET はα細胞由来であり、その発生過程を明らかにするために、膵島単離を行った。Gcggfp/gfpマウスの膵島では、Gcggfp/+ マウスの膵島に比較して、α細胞の増殖に関連するMafB、Arx、Slc38a5 遺伝子の発現が増加していた。雌のGcggfp/gfp,マウスは雄マウスと同様にpanNET が発生したが、雌のGcggfp/gfp,マウスではマクロの肝転移は認められないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予想に反して、雌のGcggfp/gfp,マウスではマクロの肝転移を認めなかったため、panNETの転移機序の解析は実施できなかった。雌のGcggfp/gfpマウスの肝臓でびまん性に認められたGFP陽性細胞はpanNETの微小転移と考えられるが、マクロの転移は成立していないことから、GFP陽性細胞の周辺環境や転移防御機構について解析している。また、panNET の転移機序の解析のため、現在、飼育中の雄のGcggfp/gfpマウスについて、13-15か月齢でマクロの肝転移が発生するか否かを調べているが、過去の報告に比較すると転移頻度が低い印象を受ける。解析数を増やして転移頻度や雌雄差について明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
現在飼育中の雄のGcggfp/gfpマウスについて、13-15か月齢でマクロの肝転移が発生するか否かを調べる。マクロの肝転移の有無や頻度に雌雄差があるのであれば、その要因について検討する。がん転移の成立には、がん細胞の浸潤・転移能の獲得、適切な微小環境が必要である。これまでに12か月齢の雌のGcggfp/gfpマウスの肝臓でびまん性に認められたGFP陽性細胞はpanNETの微小転移細胞であると考えられる。このGFP陽性細胞はどのような性質を有するのか、panNET の起源細胞と同一であるのか、類洞に存在するのであればクッパ―細胞や内皮細胞などの周囲細胞との関係性について検討し、マクロの肝転移の成立機構や防御機構について明らかにすることを目標とする。Gcggfp/gfpマウスのpanNET、膵島、GFP陽性細胞を含む肝臓をコラゲナーゼにより分解し、得られたGFP陽性細胞やがん起源細胞について、全ゲノム/RNAシーケンスを実施し、その性質について明らかにする。panNET についてはコラゲナーゼ処理後、オルガノイド培養やスフェロイド培養を行い、panNET 細胞株の樹立を試みる。
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Causes of Carryover |
本研究では、panNET の全ゲノム解析から原因遺伝子を同定する予定であった。一方で、Smithらは、グルカゴン受容体欠損マウスのpanNET についてエクソーム解析を行ったが、特徴的な遺伝子変異は見つからず、加齢とともに増加するSLC38A5陽性のα細胞がpanNET の起源であることを報告した(Smith et al. Cell Rep Med, 1; 10058, 2020)。この報告をふまえると、全ゲノム解析により、panNETの単一の原因遺伝子を同定するのは難しいと考えた。このため、panNETの全ゲノムシーケンスの実施を取りやめ、次年度使用が生じた。我々の用いているGcggfp/gfpマウスの膵島においてもSlc38a5 遺伝子の発現が亢進していたことから、SLC38A5陽性α細胞のがん起源細胞としての性質や転移機序について検討する予定である。がん、膵島、GFP陽性細胞を含む肝臓をコラゲナーゼにより分解し、得られたGFP陽性細胞やがん起源細胞について、RNA シーケンスなどの網羅的解析を実施する予定である。
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